「それじゃあ、行ってくるな。今日は帰り、遅くなるけど」
「はい、心得ております。それでは、いってらっしゃいませ」

 そう言って、玄関を後にする若い主人を見送った使用人たちは、扉が閉まると同時に顔を上げる。
 主が不在であると言う開放感が、彼女たちの間に広がった。

「ガウリイ様、本当に真面目になられたわね」
「ええ、ええ。一時はどうなることかと思ったけど」

 別に、使用人が何かミスを犯したからと言って、罰を与えるような主人ではなかったが、やはりこう言う噂話は、本人がいない方が盛り上がる。

「日曜日のミサなんかすごい人よ。中に入りきらないくらい、集まってたわ!」
「まあ、あの見た目ですしねえ」
「毎晩女遊 びに明け暮れていたのが、嘘みたいね」
「それも全部、養子を迎えられたお陰かしら」

 と、その単語に、たまたま盗み聞きをしていたリナは、ぴくりと眉を動かした。

「いきなりここに連れ帰った時は心配したけれど、私たちの取り越し苦労だったわね」
「どんなに忙しくても、夕食は必ず一緒に取るために帰られるし」
「本当に変わられたわね」
「根はお優しい方なのよ。信仰の限界に、きっとあの人なりに悩まれていたんだわ」

 口々に、好き勝手述べる使用人たちの会話を聞きながら、リナはプルプルと小刻みに体を震わせる。

(なーにがお優しいよ!!! なーにが信仰の限界よ!!! あのドグサレ神父!!!)

 一見すると、ただのか弱い少女のような風貌をしているリナだが、実は人間ではない。
 彼女はサキュバス。人間の男に取り憑き、その精気を吸い取る夢魔である。
 世間一般のサキュバス像とはかけ離れた姿だが、彼女は魔力を行使することにより、どんな美女にも思いのままに変身できるのだ。
 尤も、今その力は封印されているため、今のリナはその辺にいる少女と大差ない。
 それもこれも、なにもかも、全部あの神父――ガウリイのせいだ。
 あの晩、ガウリイにいいように遊ばれ、気がつくとリナの首に、十字架がかけられていた。

『それ、オレからのプレゼント。お前さんが、悪いこと出来ないように、な』

 つまり、この十字架がリナの 魔力を、一切封じていまったのだ。
 正直、女遊びにカマかけていた罰当たりなこの男が、こんなことまで出来るとは思わなかった。
 お陰でリナは、霧になって姿を晦ますこともできず、無理やりこの家に連れて来られ、後は毎晩のようにあの男に抱かれている。
 そう、あいつの女遊びがなくなったり、夕食までに帰ってくるのは、優しさでもなんでもない。
 全部全部、リナを抱くために他ならない。

(ああああ、本当に腹立つ!!!)

 肩を怒らせ、リナはズカズカと廊下を進んだ。
 昨日も明け方近くまでリナを犯していたくせに、どうしてあんなに清々しい顔で家を出ることが出来るのだろう。化物か!?
 サキュバスであるリナが呆れるほど、ガウリイは並々ならぬ体力と 精力を兼ね備えていた。
 本来であれば、ガウリイみたいな人間は、サキュバスにとっては貴重な人材である。
 なにせ、精力が強いということは、彼女たちの魔力を十二分に満たすことになるからだ。
 しかしだからと言って、こんな風に魔力を封じられ、その辺の女のように好き勝手抱かれると言うのは、サキュバスとしてもプライドが、どうしても許せない。
 こっそりと台所に入り込み、誰もいないことを確認して、リナはそっと勝手口に手を伸ばした。
 その途端、バチっと見えない火花が散り、彼女の手を阻む。

(チッ、ここもダメか・・・)

 ドアというドア、窓という窓、全てに結界が張られており、サキュバスである彼女は一歩も外に出られない。
 普段使用人がひし めき合って、リナがなかなか近付けないこの場所なら、もしかしてと思ったのだが…。

「ああ、お嬢様!」

 その時、戻ってきた料理長が、慌てた様子で彼女の元へと駆け寄る。

「ダメですよ、こんなところに入っちゃ」

 台所は、その家の主が入るような場所ではない。
 ガウリイの養子であるリナが窘められるのも、せんなきことだった。
 料理長にやんわりと追い出され、仕方なくリナは台所を後にする。
 他に逃げられるところはないか探そうかと思ったが、結局、ため息を一つ吐いただけで、リナは部屋へと戻ることにした。
 逃げたところで、この十字架がある限り、彼女は本来の力を取り戻すことは出来ない。
 サキュバスである自分には外すことなど出来ないし 、使用人にそれとなく頼んでみても、誰も彼女の言うことは聞いてくれなかった。
 きっと、目眩ましの呪いでもかかっているのだろう。
 本当に、忌々しい。  部屋に着くと、掃除が終わった後なのだろう。窓が開け放たれて、外からは気持ちのいい風が吹き込んでいた。
 これだけ無防備に窓が開いていても、彼女は外に出られないのだ。
 己の身を忌々しく思いながら、リナは椅子を窓辺まで持ってくると、ぼんやりと外を眺める。
 あまり大きいとは言えないこの家だが、庭だけは別だった。
 家の敷地よりももしかしたら広いかも知れないその庭には、見渡す限り色とりどりの花が咲き乱れている。
 花は嫌いではない。通常時であれば、きっとリナも、この景色に見惚れていたこ とだろう。
 しかし、今や籠の中の鳥と化しているリナにとって、生き生きと咲き誇る花の生命力すら疎ましい。
 険しい表情で窓の外の景色を見ていると、花の中で、幾つか動く人影があることに気が付いた。
 恐らく、庭師であろう。
 週に何度か、専属の庭師が家を出入りしているのは、リナも知っていた。
 しかしその中に、まだ少年とも言える男の子が混じっているのを見て、表情を変える。
 少年は、重たそうな荷物を抱え、大人たちの後を必死に付いて行っていた。
 庭師見習、と言ったところだろうか。
 その姿を目線で追いかけると、なにかを感じたのか、ふと少年がこちらを見た。
 反射的に、リナは微笑む。
 その途端、少年は顔を真っ赤にし、帽子を目深に被る と庭師の最後尾に走っていった。
 初々しい反応に、リナは自分の顔が綻ぶのを感じた。
 彼女はサキュバスだ。その性質は、男を惑わし、虜にすることにある。
 こんなところに閉じ込められ、溜まりに溜まった鬱憤もあった。
 ぺろりと、リナは自分の唇を舐める。怪しげな笑みを湛えて。



 庭師が作業している間中、リナはその様子をじっと見ていた。
 少年が、チラチラこちらを気にしているのが愉しい。
 やがて、休憩になったのだろう、その辺に座り各々好きなことを始めた頃、少年が大人の一人になにやら告げて、こちらに向かって駆けてくる。
 リナのいる、部屋の前まで来ると、少年は頬をわずかに赤らめたまま、ぶっきら棒に口を開いた。

「なんだよお前」

 なんのことか分からないと言った風を装い、リナは小首を傾げる。

「ずっと、おれのこと見てただろ」
「お庭が綺麗になっていくのが楽しかったから・・・。邪魔だった?」

 寂しそうに問いかけると、少年は目を見張ってぶんぶんと首を振った。
 よかったと、リナはか細く微笑む。

「よかった。あたし、体が弱いから、外に出るなって言われてて、ずっと退屈してるんだ」

 もちろん嘘だが、嘘ではない。
 ガウリイはそう言って、リナが外に出ないよう使用人たちに言いつけているのだ。
 途端、少年の顔に同情の色が浮かぶ。

「そうなのか・・・」
「うん・・・あっ、ねえ、みんなが呼んでるよ?」

 リナの声に、少年が弾かれたように振り向いた。
 庭師たちは作業に戻りながら、大きく手を振って少年に戻って来いと合図を送っている。

「やばっ・・・」
「あっ、待って!!」

 駆けていこうとする少年を、リナは慌てて引き止めた。
 少年は立ち止まり、肩越しにリナの方を見る。

「なに?」
「あたし、もっといっぱいお話したいな。夜になったら、遊びに来てくれない?」

 縋るようにお願いすると、少年の瞳がわずかに揺れた。
 願いを聞いてやりたいと言う思いと、そんなことをしたら怒られるのではないかと言う不安で。

「でも、勝手に入ったら怒られるし、いなくなったら親父たちにもどやされるし・・・」
「ここの窓、開けておくから」

 にっこりと、リナが微笑むと、少年の目がそれに釘付 けになった。
 かかった――。
 確かな手応えに、リナの胸は充実感で満たされる。

「待ってるね」





「ねえ、やっぱり止めようよ」

 忙しなく視線を彷徨わせ、怯えたように少年は言う。

 夜になり、幾らかも経たないうちに、少年はリナの元を訪れた。
 しばらく、彼の仕事に対する意気込みや、父親の素晴らしさを聞いてやりたいと、ようやくひと段落すると、リナはおもむろに切り出した。

『ねえ、もっと仲良くなるための秘密の遊び、してみない?』

「どうして? 大人はみんなやってるよ?」

 あどけなく首を傾げ、リナは問いかけた。
 聞きながら、肌蹴た少年の胸に指を這わす。

「だってこんなこと、おかしいよ! 神様だって、きっとお 許しにならない・・・」

 震える声で答える少年に、リナはくすくすと笑った。

「神様があたしたちをこういう風にお作りになったのよ? 許さないなんて、おかしいわ」

 パサリと、リナは上に羽織っていたガーディガンを脱ぎ落とす。
 透き通りそうなほど白い肌が、薄暗い部屋の中で浮かび上がって見えた。
 小さな膨らみを目の当たりにして、少年が小さく喉を鳴らす。

「ほら、触ってみて」

 少年の手を掴み、リナは自分の胸へと導いた。
 押し当てると、彼の顔は茹で蛸みたいに赤くなっている。

「あたしも、ドキドキしてるの。分かる?」

 こくりと、少年が頷いた。
 さあ、これからどうやってやろうかと、リナが頭の中で算段を巡らせた、その時、

 ガチャ

 突然、なんの前触れもなく扉が開いた。
 弾かれたように、二人はそちらへと顔を向ける。

「あっ・・・」

 立っていた人を見て、リナは顔色を無くした。

「ガウリイ・・・」

 もしかしてと思ったが、その予感が当たったことを苦々しく思う。
 と言ってもこの部屋に、ノックもなしに入ってくるのは、ガウリイくらいなものだが。
 ガウリイは無言で、部屋の中へと入ってくる。
 そして、唖然としている少年の肩に、優しく手を置いた。

「あっ・・・おれ・・・」

 ガタガタと、少年が震えだす。
 その顔色は蒼白を通り越して白くなっており、まるで斬首刑直前の囚人のようだ。
 そんな少年に、ガウリイは穏やかに話しかける。

「そんなに震えなくていい。君がこのことを悔いているのは、主はご存知だ。罪を認めたものを、それ以上は罰するすることはない」
「は、はい・・・」

 少年の頬に、赤みが刺す。許されたという思いが、少年に暖かな希望を与えた。
 だがそれは、次のガウリイの一言で、再びどん底まで落とされることになる。

「だけど、それも今回だけだ。もし次があれば、オレが君を罰しに行くよ」

 底抜けに優しいその口調は、それ故少年を震え上がらせるには充分だった。
 慌ただしく、少年が部屋から出て行くと、

「さて、と」

 ガウリイが振り返る。
 リナはすでに、あれこれ言い訳するつもりはなかった。
 だがら不貞腐れたように頬を膨らませて、ガウリイ からの言葉を待つ。

「なにも言わないんだな」
「別に、あんたに説明する義理なんてないもの。だいたい、今日は遅くなるとか言ってなかった?」

 普段は夕食までには必ず帰るガウリイだが、遅くなると予め伝えられた時は、それより早く帰ることはない。
 それが分かっていたから、リナは少年を誘ったのだ。
 たまたまなどと都合のいいこと、リナは信用していなかった。

「頭のいいお前さんにしては、察しが悪いな。家の周りに張っている結界が、単にリナを閉じ込めるだけのものだと思ってたのか?」

 ガウリイの台詞に、そう言うことかと、リナは自分の迂闊さを呪った。
 どうやら結界は、外からの侵入者に対しても反応するらしい。
 少年が来た時点で、ガウリイには筒抜けだったと言うことだ。

「それで、あんな何も知らない男の子を誘って、なにをしようとしてたんだ?」
「なにって、分かるでしょ? あたしはサキュバスよ?」

 ガウリイの質問を、リナは鼻で笑い飛ばした。

「食事に不足はしてないだろ?」
「だから? だから大人しく飼われてろって言うの?」

 カッと、リナの頭に怒りで血が上る。
 今まで抑えていたものが、一気に込み上げてきた。

「冗談! 悪魔のあたしが、そんなこと出来る訳ないでしょ!」

 リナは苛烈な視線で、ガウリイを睨み付ける。
 もしも彼女に鋭い牙と爪があれば、そのまま噛み殺しそうな勢いだ。
 しかしその直後、ふっと、リナは笑みを漏らす。

「今のうちに、いい気になっていればいいわ。あたしの本能は止められない、あんたにも。そのうち悪い噂でも立って、あんたの信用はガタ落ちよ」

 それは、挑発だったのだろう。
 力を奪われ、なにも出来ない非力な彼女が、せめてガウリイに一矢報いんと放った台詞。
 他愛もない、子供の嫌がらせ程度の力しかないであろう、その台詞を聞いて、

「そうか――」

 呟いたガウリイが、静かにリナへと近付いた。
 その途端、リナの背筋に悪寒が走る。
 嫌な感じだった。まるで、開けてはいけないパンドラの箱を開けてしまったような――

「そんな悪魔は、二度と悪さが出来ないようにしないとな」

 微笑むガウリイの顔は、まるで信者を相手にしているみたいに慈愛に満ちていて。
 リナの底知れぬ恐怖は、ますます明確なものになった。










「はっ、あっ・・・」

 大きく息を吐き、リナは身動ぎをする。
 両手両足を縛られ、自由を奪われた体は思うように動かせず、それでもリナは部屋が薄暗くなっていることに気付き、どうにか視線を上げた。
 窓から見える景色は、いつの間にか星空へと姿を変えている。

「くっ、うっ・・・!」

 動いたことで、擦れた服が、飢えに乾いた彼女の体を刺激する。
 たまらず、リナは身を縮めた。  もうどれくらい、この状態のまま放っておかれているだろうか。
 二日目くらいまでは、まだ理性もあった。負けるものかと、己を奮い立たせることも出来た。
 しかし、精気も与えられないまま放置された体は、緩やかに彼女のその決意を鈍らせる。

 欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。

 頭の中が、ただその欲望だけで支配されていく。
 まるで、砂漠で水を求める旅人の様だ。
 旅人との違うのは、リナに自由に水を求めて動き回ることが、許されていないと言うことだ。
 と、その時、ガチャリと、静かに扉が開いた。
 ぼんやりと、澱んだ空気の支配する部屋に、一筋の光が差し込む。

「あっ・・・」

 期待に満ちた表情で、リナは体を起こす。

「がう、りい・・・」

 それは、彼女が最も待ち焦がれ、最も嫌悪していた存在。
 その姿を見た途端、拒絶する気持ちは、砂が波に攫われるようにゆっくりと、しかし確実に薄れていった。
 後ろ手に扉を閉め、ガウリイがこちらへと歩いてくる。

「がうりい、お願い、あたし、もう・・・」

 リナが最後まで言うよりも早く、ガウリイはベッドの傍らに到着した。

「苦しそうだな、リナ」

 青い瞳が、彼女の姿を捉える。
 その手が伸び、流れるリナの髪を一房掴むと、ぞくりと彼女の背筋が粟立った。
 ガウリイは、リナの足を拘束していたロザリオを解く。
 ようやく両足の自由が取り戻されたが、しかしすでにリナの頭の中に、逃げると言う選択肢はなかった。
 彼女はベッドの上に膝立ちになると、ガウリイへと顔を近づける。
 呼吸に自然と熱が籠る。
 互いの鼻と鼻が触れあい、後少しで唇が重なると言うのに、その直前で、ガウリイが掴んでいたリナの髪をぐいっと引っ張った。

「あっ、ああ・・・」

 絶望に、リナは大きく目を見開いた。
 ここまで来て、まだお預けをしようと言うのか。
 意地悪く笑う男の顔が、まるで悪魔のように見える。

「ガウリイ、もう、許して・・・」

 つうっと、両の瞳から涙が零れ落ちた。
 それを見て、ガウリイは髪から手を放すと、彼女の頬を両手で包み込む。

「もう、他の男を誘わないか?」
「誘わない・・・」
「オレ以外の男から、精気をもらったりしないか?」
「しない、からぁ・・・」

 早く、早く、と、気持ちだけが急く。
 そんな彼女を押し留め、念を押すようにガウリイが口を開いた。

「神に誓って?」

 その瞬間、剥がれ落ちていたリナの理性が、わずかな時間元に戻る。
 悪魔が神に誓うなど、あってはならない。
 もしそんなことをすれば、それは誓いなどではなく、呪いとして彼女の全てを縛る。
 出来ない。出来るはずがない。
 だけど、

「リナ?」

 優しく問い掛ける、その甘美な毒を諦める術など、当に、彼女は失っていた。

「誓、う・・・誓う、から・・・」

 震える声で、絞り出すように、それでもはっきりと、リナは答える。
 その瞬間、彼女の内で、ごとりと、なにか重い枷が嵌められるような音がした。
 ああ、と、頭の中で、最後まで冷静だった彼女が小さく呟く。
 これでもう、戻れない――。

「本当に?」

 なおも意地悪く焦らすガウリイに、リナはその嗜虐心を煽ることになると分かっていながら、こくこくと従順に頷いた。
 ガウリイの瞳が、すうっと細くなる。まるで、獲物を見つけた獣のように。

「それじゃあ、見せてもらおうかな」
「?」

 なにを、と問い掛けるより早く、ガウリイに両脇から抱えられ、リナの体はわずかな間、宙に浮いた。
 降ろされたのは、絨毯の上。
 ガウリイの足の間から、彼を見上げる形になり、彼女は瞬時に理解した。ガウリイの言わんとすることを。
 寛がれたズボンの中から、凶悪に反り返った一物が取り出された瞬間、リナは目はそこに釘付けになった。
 もう何日も、欲しくて欲しくてたまらなかったものが、目の前にある。
 自然と、リナは顔を近づけた。
 腕はまだ後ろ手に拘束されているため、リナは舌を伸ばして彼のモノを舐め上げる。
 むあっとした、汗臭い匂いが鼻をついた。

 たまらない――。

 うっとりとした顔で、リナは愛しそうにそれを眺める。
 先端を咥え、喉の奥まで導くが、ガウリイのモノは大きすぎて、根元までは届かない。
 両手が使えないことをもどかしく感じながら、リナは懸命に口を動かした。
 溢れた涎が、潤滑油となり口の滑りをよくする。
 口できゅっと吸い上げたり、舌で筋をなぞったりしていると、ガウリイの体がぴくりと反応した。
 じわりと、口の中に苦味が広がる。
 更にリナがガウリイのモノを強く吸い上げた、その時、突然彼女の後頭部が抑えられた。

「歯、立てるなよ」

 言うが早いが、ガウリイが乱暴に、リナの口を犯しだす。
 激しく喉の奥を突かれ、息苦しさと気持ち悪さに、リナはわずかに身動ぎをした。
 しかし、そんな彼女の事情などお構いなしに、ガウリイは腰を振り続る。

「うっ、くっ・・・」

 小さく呻いて、ガウリイなリナの口の中で射精した。
 熱い液体が、小刻みにリナの喉の奥を打つ。
 容赦なく流れ込んでくるそれを、リナはコクコクと喉を鳴らしながら飲み込んでいく。
 最後まで出し切り、ガウリイが彼女の口から自身を引き抜くと、最後の一滴まで飲み干したリナが、ほうっとため息を付いた。
 耐え切れないほどの飢えが、ゆっくり満たされていくのが分かる。
 だが、まだ足りない。
 身体の奥で燻っていた熱は、今の行為でますます煽られ、もはや自分では制御もできないくらい燃え上がっていた。

「ねえ、ガウリイ・・・お願い・・・」

 リナはとろんとした眼差しを、ガウリイへと向ける。
 彼女の瞳の奥に、隠し切れないほどの欲望を見出し、ガウリイが愉しそうに微笑んだ。

「まだ足りないのか? しょうのない奴だな」
「だ、って・・・」

 不意に、ガウリイが、リナをベッドの上に引き上げた。
 自分の正面に膝立ちにして立たせると、足の付け根に指を入れる。

「んっ・・・」

 小さく呻いて、リナが身を震わせた。
 ガウリイの指が割れ目をなぞる。
 ほんの少し力を込めただけで、指の先端はとぷっと音を立て、彼女の中に吸い込まれた。
 くちくちと、入口だけを悪戯に刺激するガウリイの指に、リナは堪らず腰を揺らす。

「そんなに欲しいのか?」

 意地悪く聞いてくるガウリイに、リナはこくりと頷く。

「じゃあ、どれだけ欲しいのか、説明してもらおうか」

 ガウリイの手が、リナの両手を拘束していたロザリオを外した。
 鎖同士が擦れ、ジャラッと重たそうな音を立てるそれを、彼は無造作にベッドの脇へと投げ捨てる。

「説明、って・・・?」
「リナが、どこになにをどれだけ欲しいのか、言ってくれないと分からないだろ?」

 無邪気に微笑む男の顔を、リナは戸惑いながら見詰めた。
 つまり、おねだりをしろと言うことか。
 サキュバスとして生きてきたリナにとって、男にねだった経験などほとんどない。
 おずおずと、リナはスカートの端を両手で摘まむと、ゆっくりそれを引き上げた。
 陽に当たっても焼けることのない白い肌が、闇の中で幻想的に浮かび上がる。
 その付け根にあるのは、薄い茂み。

「あたしの・・・ここに・・・」

 じっと見つめるガウリイの視線に、恥ずかしさを覚えて頬が赤くなる。

「ガウリイのを・・・下さい・・・」

 手が震える。それを静めるように、リナはぎゅっとスカートの裾を握った。
 ガウリイからの返事を待つが、しかし、彼はなにも言わない。
 その沈黙に耐え切れず、リナはガウリイの様子を窺った。
 彼は愉しげに笑っているが、動こうとはしない。

「ガウリイ・・・?」
「ん? どうした?」
「あの・・・」

 わざとらしく問い返すガウリイに、リナは察した。
 ガウリイは、リナが羞恥に身悶えする様を見て、愉しんでいるのだ。
 もっと卑猥な言葉で強請らないと、きっとずっとこのままお預けを食らうことになるだろう。
 じわりと、泉から更に蜜が溢れてくる。
 見られているだけなのに、身体が勝手に反応をしているのだ。
 このまま放っておかれるなんて、我慢できない。
 快楽への渇望が、理性の判断を狂わせる。
 リナはその場に寝ころんだ。
 一瞬、不思議そうな顔をするガウリイに向けて、思い切って立てた膝を広げると、熱く濡れそぼった割れ目を、自分の手で左右に開く。

「あ、あたしの、いやらしいここに、ガウリイのモノを、挿れて、下さい」

 ガウリイが口の端を持ち上げる。
 それは、こんな場面には似つかわしくないくらい穏やかな微笑みで、リナは一瞬、自分の置かれた立場も忘れて見惚れた。

「こんなに涎を垂らして、しょうのない奴だな」

 ガウリイが近付いてくる。
 彼のモノはすでに大きく反り返っており、それを見たリナは、期待に胸を昂らせた。

「早くぅ・・・がうりい・・・」

 甘ったるい声でねだるリナに、満足したようにガウリイは微笑むと、彼女の中に自分のモノを打ち付ける。

「あっ・・・!!!」

 突然最奥まで貫かれ、リナは大きく目を見開く。
 たったそれだけなのに、容易に達してしまうのは、それだけ飢えていたと言うことだろう。
 間髪入れず、ガウリイが動き出した。
 腰を打ち付けるその度に、皮膚と皮膚が打ち合う音が響く。
 結合部から溢れる液体は、一体どちらのものだろうか。

「はっ、ああっ、ああっ!」

 奥を抉られ、捻られる感覚に、リナは戦慄きガウリイのモノを締め付ける。
 きゅうっと、搾り取ろうとする中のその動きに、ガウリイはぎゅっと目を閉じて耐えた。
 ドッと、リナの全身が弛緩する。
 それを見計らい、ガウリイは彼女の体を横向きにさせる。
 中で当たる角度が変わる、それすらもリナの性感帯を刺激して、リナは小刻みに体を震わせた。

「まだ、だぞ」

 大きく片足を垂直に持ち上げ、その脹脛にしゃぶりつきながら、ガウリイはリナを見下ろした。
 リナは涙で滲む視界で、彼を捉える。

「もっともっと、オレを満足させてくれよ、リナ」

 微笑んだその顔は、堪らなく雄臭くて、それだけでもうリナは達してしまいそうだった。
 ゆっくりと、ガウリイが動き出す。
 長く深く、ギリギリまで引き抜かれはたま打ち付けられる、その動作に零れる嬌声は止められない。
 ぐいぐいと、子宮口を突かれて、リナは嫌々をするように首を振った。

「ダメ、あたし・・・おかしく、なって・・・」
「なればいいさ」

 容赦のないガウリイの一言。それを合図に、また彼の動きが激しくなる。

「はっ、あっ、ああっ、ひあっ!」

 脳髄が、視界が、感覚が、全てが白く塗りつぶされる。
 達しているのに、そこから更にガウリイが攻め立てるものだから、もうどうなっているのか自分でも分からなかった。
 涎が零れるのも、涙が溢れるのも、何度も何度も達することも、どうにも止められないまま、リナの意識が遠ざかる。
 最後に、身体の奥で放たれた熱に、充足感を感じながら。










 澱んだ雲が、空を覆っている。
 雨が降るのだろうかと、そんなことを考えながら、この屋敷のメイド長は主の部屋の扉をノックした。

「開いてるぞ」

 返ってきた簡潔なセリフに、失礼しますと一言断って、彼女は扉を開けた。
 大きな窓の前に鎮座する、立派なデスク。
 主は、そのデスクに座り、なにやら書き物をしてるところだった。

「お仕事、ですか?」
「ああ。この間多額の寄付をしてくれた貴族がいただろ。そこにお礼の手紙をな」

 困ったように苦笑する主。
 あまり、こう言った作業は好きではないのは知っている。
 進まない手紙を前に、彼はクルリと手にした羽ペンを回した。
 しかし、おかしいなと、メイド長は思う。
 こう言った手紙類を、主が書くことは珍しい。だいたいいつも、屋敷の誰かに頼むと言うのに。

「それは、大変でございますね」

 きっと、そうしないといけない理由があるのだろうと、メイド長はあまり深く突っ込まなかった。
 軽く頭を下げ、

「ところで、本日の昼食はどうされますか?」

 本来の目的を切り出した。
 主は少し考えた後、

「部屋でもらおうかな。手紙も、まだ終わりそうにないし」
「畏まりました」

 恭しく、メイド長は頭を下げる。
 そのまま部屋を出ようと思ったが、

「そう言えば」

 ふと思い出したように、メイド長は口を開いた。

「今朝から、リナ様のお姿を見ていないのですが、ご存知ですか?」

 朝食の時は、テーブルに付いていたのを覚えている。
 しかし、それ以降ぱったり姿がみえない。
 いや、と、主が頭を横に振る。

「屋敷の中にはいるんだろう。気にしなくていいさ」

 体が弱い主の養女が、外に出るとは考えにくかった。
 きっとそうだろうと、メイド長も深く考えないようにする。

「それと、もう一つよろしいですか?」
「なんだ?」
「さっきから、水音のようなものが聞こえるのですが・・・」

 一瞬、主の手が止まった。
 彼は部屋の中に視線を巡らせる。

「オレには聞こえないけど・・・どっかで水漏れでもしてるのか?」

 そんな音だろうかと、メイド長は首を捻った。
 それは、なんと言うか、子供が水遊びをしているような、そんな音によく似ていたからだ。
 しかし、それを主に伝える気はない。

「確認しておきます」

 もし本当に、水漏れをしていたら大変だと、メイド長は考えながら、彼女は今度こそ本当に、彼の部屋を後にした。



 扉が閉まると、ガウリイは口元に手を当てる。
 その奥では、唇が綺麗な笑みの形を作っていた。

「だってよ、リナ」

 その声に、それまで聞こえていた水音が止んだ。
 彼はわずかに頭を下げると、デスクの下を覗き見る。

「ばれなくてよかったな」

 そこには、ガウリイの足の間にしゃがみ込み、彼の剛直を頬張っているリナの姿があった。
 服は全部剥ぎ取られ、足の付け根には男根を模した模造品がはめ込まれている。
 リナは自分でそれを弄びながら、はち切れんばかりに大きくなったそれを、愛しそうに見つめていた。

「もうすぐ誰かが食事を運んでくるから、それまでに終わらせろよ。そうでないと、お仕置きだからな」

 うっとりと細められた双眸に射抜かれて、リナのあそこはきゅんっと愛液を溢れさせた。



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