物音が聞こえたような気がして、ガウリイはふと目を覚ました。
 まだ半分夢の中にいるようで、頭の中がぼんやりとしている。纏わりつくような甘い香りに、脳髄がかき回されたようにくらくらした。
 今は何時だろう。窓越しに見える空は、まだ漆黒の体をしている。夜明けは遠そうだ。
 それにしても、この香りはなんだろう。考えが纏まらない。ああ、頭がくらくらする。
 その時、くすくすと、微かに人の笑い声が聞こえた気がした。
 ベッドがわずかに軋み、何かがガウリイの上に覆いかぶさってくる。
 重たい瞼をこじ開けて、ガウリイは闇に目を凝らした。
 薄汚れた天井。それをバックに、知らない女がガウリイのことを見下ろしていた。
 豊かな黒髪に、女性らしいふくよかな体つき。
 真っ赤な唇が微かに吊り上がり、その端からちろりと、蛇のように舌が顔を覗かせる。

「だれ、だ・・・?」

 起き上がろうとするガウリイだったが、その肩が女の手によって優しく押された。
 たいした力ではなかったが、ガウリイは抗うことも出来ずに再びベッドへと沈む。

「いいのよ、抵抗しないで」

 甘い甘い蜂蜜のような、鼓膜にこびりつく女の声。
 女の指が、ガウリイの胸板を擽るようになぞった。冷たい指先に、ぞくりと背中が粟立つ。

「あたしが、気持ちよくさせてあげる」

 妖艶に微笑み、女の顔がガウリイへと近付いてくる。だが、その女の肩を、ガウリイはガシッと鷲掴みにした。

「へっ?」

 間の抜けた声が、女の口から突いて出た。そのままガウリイは、女をベッドへと引き倒す。

「!? なにっ・・・」
「サキュバスだろ、あんた」

 ガウリイの問いかけに、女が息を呑むのが分かった。
 女からは視線を外さないまま、ガウリイは手を伸ばすと、頭の上にあった小窓を開け放つ。
 冷え切った夜気のお陰で、甘ったるい香りに犯された思考が、徐々に鮮明になっていく。

「な、んで・・・分かったのよ・・・」

 ガウリイの下で、女が小さく歯噛みをする。
 その顔を見下ろして、ガウリイはきょとんと眼を瞬かせた。
 そこにいたのは、先程までの匂い立つような美女・・・ではなかった。
 小柄な体躯。波打つような茶色の髪。唯一、強気に睨み付ける赤い瞳だけが、先程の面影を残しているが、そこにいたのは見紛うことない少女である。

「子供・・・?」

 正直に思ったことが、ついつい口を突いて出た。
 その瞬間、ガウリイの長い金髪が、思いっきり引っ張られる。

「いてっ」
「誰が子供よ!?」

 噛みつかんばかりの勢いで、少女が叫んだ。どうやら地雷を踏んだらしい。

「って言うか離しなさいよ!」
「あ、こら、暴れるなって」

 じたばたともがく少女の動きを、ガウリイは片手で易々と封じ込める。

「嬢ちゃんは・・・」
「嬢ちゃんって言うな! リナよ!」
「じゃあリナ、お前さん、本当にサキュバスなのか?」
「なによ、文句あるの?」

 ムスッと、傍目にも分かるくらい、リナが不貞腐れたのが分かった。
 サキュバスと言えば、男を誑かしてその精気を吸い取る悪魔のことだが、そのために男が魅力的だと思う女性に化けるのだと言う。
 本来の姿は醜悪な化け物だと言われているのに、まさかこんな可愛らしい少女がサキュバスとは、とてもだが信じられなかった。

「なんでここに来た? オレが司祭の息子だって知って、襲って箔でも付ける気か?」
「・・・・・はっ?」

 ガウリイの台詞に、リナは大きな目を更に大きく見開いた。

「司祭の息子!? なにそれ!?」
「あれ? 知ってたんじゃいのか?」
「知る訳ないでしょ!!! なんで司祭の息子がこんなボロ宿に泊まってるのよ!?」

 驚くリナの様子から察するに、どうやら本当に知らなかったらしい。
 悪魔の中には、聖職者を殺して力を付けると奴もいると聞いていたので警戒したが、その心配はなさそうだ。

「放蕩息子なんだ、オレ」

 にっこりを微笑めば、リナは呆れたような顔で見上げてくる。
 あどけない表情は、本当にただの少女のようにしか見えなくて、彼女がサキュバスなんて悪い冗談としか思えなかった。
 と、ガウリイの中に、ムクムクと悪い考えが頭を擡げてくる。
 彼女が悪魔なら、なにをしてもいいのではないか、と。
 自然と、口の端が持ち上がる。
 そんなガウリイに、良からぬものでも感じたのだろう。

「なに考えてるのよ・・・?」

 恐る恐る問い掛けるリナに、ガウリイは不敵に微笑むと、いきなりに彼女の唇を奪った。

「!?」

 突然のことに、リナは驚き目を丸くする。
 無防備に開かれた唇をこじ開け、無遠慮に舌を差し込むと、ようやく我に返った彼女が抵抗らしい抵抗を始めた。

「んー!!!」

 声にならない抗議の声を上げ、じたばたと暴れるが、ガウリイが少し力を込めるだけでもう動けなくなる。
 まるで子猫のように非力だ。
 逃げる舌を絡め取り、歯列の裏をなぞれば、びくりとガウリイの下でリナの体が跳ねる。
 彼女の口内を存分に蹂躙した後、ガウリイはようやく顔を離した。
 二人の唇の間を、透明な糸が厭らしく繋ぐ。それは、薄暗い部屋の中でも、その存在を主張するかのように淫靡に光っていた。

「な、に・・・すんのよ・・・」

 潤んだ瞳が、ガウリイを睨み付ける。

「なにって、こう言うことしに来たんだろ?」
「そうだけど・・・って言うか、あんた司祭の息子なんでしょ!? こんなことして・・・」
「言っただろ。放蕩息子だって」

 リナの首筋に舌を這わせれば、ひゃあっと色気のない悲鳴が上がる。
 そもそも、ガウリイがこの宿を利用しているのは、近くに花街があるからだ。
 こう言う安宿は、古くて寝心地もあまりいいとは言えないが、代わりに客のことを一切詮索してこないので、使い勝手がいい。
 いつもなら、この時間は適当に見繕った女と事に及んでいるものなのだが、今日はどう言う訳かこれと言っていい女に巡り合えなかった。
 そう言う時に限って、こんな闖入者が現れるとは、

「これも、神の思し召し、ってやつか」

 神様が聞いたら怒りそうな台詞をサラッと吐いて、ガウリイは目の前の少女へと集中する。
 こうして見ると、ますます幼い体つきをしているなと、ガウリイは思った。
 胸は小ぶりだし、肉付きも薄いし、なんだか子供相手にいけないことをしているようだ。
 あまり、そう言った趣味は持ち合わせていないと思っていたのだが、これはこれで、なんだか背徳的な気持ちになって興奮する。
 どうせ相手はサキュバスだ。仮に子供だとしても、神様もお許しになるだろう。
 ささやかな胸に手を這わせ、先端を強めに擦ると、リナがわずかに顔を顰めた。
 それに応じるように、胸の突起も硬さを増す。

「ああ、感度はいいようだな」

 笑いながらそう告げると、リナはカァァッと、音がしそうなほど顔を赤く染め上げた。

「お前さん、本当にサキュバスなのか?」
「どう言う・・・意味よ・・・」

 声を抑えているせいだろう。途切れ途切れに尋ねるリナに、ガウリイは胸を弄る手は止めないまま、口を開く。

「反応が生娘みたいだからなー。それとも、そうやって煽る作戦なのか?」

 コリッと、少し強めに先端を抓れば、ぐっと彼女が唇を噛み締める。
 それでも殺しきれなかったわずかな嬌声が、小さな口から零れ落ちた。

「あんたに、なんか・・・教え、ないわよ・・・」
「へえ・・・まっ、別になんでもいいけどな」

 仮に彼女がサキュバスでないとして、例えば・・・そう、例えばの話だが。
 例えば彼女が、自分の父を貶めようとしている誰かが送り込んできた、ただの少女で、うっかり抱いたが最後、一族郎党路頭に迷う、なんてことになるのではないか・・・。
 と言う考えが、脳裏を過らなかった訳でもないが、それでも別に構わないなと、ガウリイはあっさり結論付けた。
 元々、父親とは折り合いが悪かったし。
 それで彼が、信用を無くそうが、職を失おうが、別にガウリイの知ったことではなかった。
 それよりも、今は目の前の愉しみを優先する方が大切だ。
 リナの服を脱がそうとしたガウリイだったが、

「ん?」

 その手が途中で止まる。

「なんだこれ? どうやって脱がせるんだ?」

 リナが身に纏っていたのは、黒のぴったりとしたタイツのようなもので、一見してボタンやファスナーのようなものは見当たらない。
 試しに捲ってみようかと思ったが、彼女の肌と一体化しているように吸い付いて離れなかった。

「まあ、いいか」

 あまり気にせず、ガウリイは服越しにリナの乳首に歯を立てる。
 ヒュッと、リナの喉の奥で小さく空気が鳴った。
 舌先で突くようになぞると、リナは小刻みに体を震わせる。

「我慢しないで、声出したらどうだ?」

 ガウリイの問いに、しかしリナは首を振って更に唇を噛み締めた。
 強情な姿に、ガウリイは思わず苦笑する。
 サキュバスなのに、なぜこうも意地を張るのだろうかと考えて、唐突に、ガウリイは閃いた。
 もしかしたら、サキュバスだからなのかもしれない。
 精気を吸うはずの獲物にいいように体を弄ばれたら、それはさぞや屈辱だろう。
 だから、頑なに声を殺すのだ。
 そのことに気付いたガウリイは、口角を静かに持ち上げた。
 ふつふつと、嗜虐心が込み上げてくる。
 そうとなれば、どうしてもリナに声を出させたくて、ガウリイは彼女の両足を大きくM字に開くと、そこに顔を埋めた。
 薄い布程度では隠しようもないほど、リナのそこは濡れている。
 顔を近づければ、ほんのりと、汗とは別の甘い香りが漂ってくるような気がした。
 ガウリイはそこに、無遠慮に舌を這わせる。

「!?」

 ひっと小さく悲鳴が上がり、リナの背中が仰け反った。
 舌で探ると、割れ目の上に小さな突起を発見し、ガウリイはそこに吸い付く。

「やっ、ああ!!!」

 人の女と同じで、サキュバスもここは感じるらしい。
 伸びた手がガウリイの頭を遠ざけようと力を込めるが、構わずガウリイは蕾を嬲った。
 吸い付き、舌で擦り、たまに甘噛みをする。
 その度に、リナの体は面白いほど反応を返し、くねくねと腰が蠢く。

「ひゃっ、あああ、あああん!」

 もはや、リナは声を殺すなどしていなかった。
 頭に添えられた手は力なく彼の髪を掴み、嫌々をするように左右に頭を振れば、それに倣って栗色の髪がシーツの上に新しい模様を描く。
 リナの手を取り、ガウリイは、音がするほど強くそこに吸い付いた。

「・・・、・・・・・・!?」

 声もなく、リナは体を硬直させる。
 艶やかな唇が二度、三度と大きく動き、そして、ドッとリナは全身を弛緩させた。
 足の間から、ガウリイが顔を上げる。
 リナは荒く息をしながら、焦点の定まっていない眼差しを不規則に辺りへと走らせたいた。
 と、その時、ガウリイは思わず目を見張る。
 それまで、なにをしても脱がせれそうになかったリナの服が、まるで霧に溶けたかのようにすうっと消えていくのだ。
 へえっと、思わず感嘆の声が口を付いてくる。
 よく分からないが、服を実体化させていたのは、どうやら彼女の意志力による賜物だったらしい。
 これは本当に本当のサキュバスなのかもしれない。
 眼下に晒されたリナの体は、凹凸こそ少ないものの、肌は白くてきめ細かく、一切の穢れを知らないように見えた。
 それは幼い頃見た有名な彫刻家が彫り上げたマリア像を彷彿とさせて、ガウリイは小さく笑う。
 相手は悪魔なのに、マリアと混合するとは、自分もどうかしている。
 まだ意識がしっかりとしていないリナの上に、ガウリイは覆い被さった。
 両足を取り、その間に自身の熱く猛った楔をそえれば、リナが我に返ったようにガウリイを見る。

「止めて!!!」
「なんでだ?」

 噛みつくように睨み付けるリナを見下ろして、ガウリイは首を傾げた。

「サキュバスは、性交をして精気を吸い取るんだろ? だったら、今から本番じゃないか」

 飄々と答えるガウリイに、しかしリナの怒りは揺るがない。

「あたしは、あんたに弄ばれるために来たわけじゃないわ!!!」

 それは、リナのサキュバスとしてのプライドを見て取れて、ガウリイは意図せず微笑んだ。
 そう言う女は、嫌いじゃない。
 そして、そんな女を屈服させることも、嫌いではなかった。
 構わず、ガウリイはリナの中に自身を埋め込んでいく。
 シーツに染みが出来そうなほど濡れそぼった彼女の割れ目は、ガウリイのモノをすんなりと飲み込んでいった。

「あっ、くう・・・」

 圧迫感に、リナの表情が歪む。
 最奥まで到達し、腰を振れば、それに合わせてリナがリズミカルに声を上げる。
 リナの中は、その体のサイズに比例して、とても狭かった。
 硬くなった先やエラの部分で、リナの中を突いたり擦ったりして攻めているのに、気が付けば彼女の中が絡め取るように蠢き、逆にこちらが攻め立てられる。
 すごいな、と、ガウリイは胸中で呟いた。
 これがサキュバスと言うものか。なるほど、これなら男が溺れてしまうのも分かる。
 こんなものを味わったら、生身の女ではとても満足できそうにない。

「ひやっ、あっ!」

 彼の下で喘ぐリナは、サキュバスの本能に乗っ取って実に気持ちよさそうで、しかしそのプライドから、時折悔しそうにこちらを睨み付けてくる。
 その目で見られる度に、ガウリイの背中には仄暗い快感のようなものが込み上げてきた。
 リナの片足を大きく持ち上げ、更に深く、ガウリイは彼女の中に押し入る。

「はあっ、ああ!」

 深さと当たる角度が変わったことで、リナの嬌声が変わる。
 ここが弱いのかとある一点を執拗に攻めると、びくびくとリナの体が戦慄き、膣内が彼を搾り取るようにきゅうっと絞められた。
 まだまだリナの体を味わいたいガウリイは、込み上げる射精感をどうにか堪えようとするが、それまでに散々攻められた彼の方も、すでに限界が近い。
 仕方なく、ガウリイはリナの両足を高々と上げると、ラストスパートと言わんばかりに腰を動かした。
 達しているところに更に叩きつけられ、リナは発狂しそうに滅茶苦茶に頭を振る。
 構わず、ガウリイは力任せに彼女の中に叩きつけると、最奥で自分の欲望を一気に解放した。
 小刻みに射精をしながら、ガウリイはほうっと息を吐く。
 その時、突然くらりと、立ち眩みに似た眩暈が彼を襲った。
 今まで女と寝てきて、こんなことが起こったことはない。
 もしかしたらこれが、精気を吸われていることの証なのかも知れない。
 見下ろせば、リナは気を失っているのか、目を閉じてぐったりと四肢を投げ出していた。
 しかしその顔は血色を帯び、先程より生気を感じさせる。
 もはやリナがサキュバスであることに、疑う余地などなかった。

「悪魔なら、誰にも迷惑かけることもないよな」

 汗で額に張り付いたリナの髪を払いのけながら、ガウリイは呟く。
 あどけない寝顔はまるで少女そのもので、それが殊更、先程彼の中に芽生えた仄暗い快感に火をつける。

「ホント、いいものを手に入れたよ」

 まるで新しい玩具を手に入れた子供のように、ガウリイは微笑んだ。
 心の底から、嬉しそうに。



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