バシャバシャと、走るたびに足元の泥水が撥ねる。
 それが気にならない程度には、すでに二人ともびしょ濡れになっていた。

「もう、なんでこんなに降ってくるのよ!」

 苛立たしそうに叫ぶリナに、

「リナ、あそこ」

 すぐ後ろを付いて来ていたガウリイが、道から外れた一点を指差す。
 雨で煙る視界の先に、洞窟のようなものが見えた。
 村までは、どんなに走っても後半刻程はかかる。
 雨に打たれ、足場の悪い道を走り続けた体は、すでに疲労のピークを迎えていた。

「仕方ないわね、あそこで雨宿りするわよ、ガウリイ」
「おう」

 二人は進路を変え、洞窟に向かって走る。

「っ、はあ、もう! ひどい雨!」

 駆け込むと、開口一番リナは叫んだ。
 全身から滴る水を忌々しそうに振り払い、辺りを見渡す。
 洞窟の中は、当然ながら薄暗く、ほとんど何も見て取れない。

「明かりよ!」

 呪文を唱え、併せた両手をゆっくりと放すと、そこから生まれた光の球が、ゆっくりと上に登っていく。
 入口は狭かったが、中は思っていたよりも広かった。
 と言っても、ちょっとした宿の一室程度のものだったが、雨宿りをするならこれで充分だ。

「しっかし、よく降るなー」

 ぽたぽたと、前髪から滴り落ちる滴を払いながら、ガウリイがぼやく。
 とりあえず、リナは荷物を下ろすと中身を改めた。
 予想通り、荷物の中も雨水でびしょびしょになっていたが、着替えや携帯燃料なんかの濡れて困るのもは、しっかりガードしていたので問題ない。
 こうも全身濡れていると、それだけで気力も体力も削がれていく。

「とりあえず、着替えちゃいましょ」

 疲れきった声で、リナはそう告げた。







 それから数十分後。

「はあ・・・」

 新しい服に着替え、干し肉を齧り、ようやく人心地付くと、リナは盛大なため息を付いた。
 雨はまだ降っている。雲の様子からするに、恐らく夜中は降り続けるだろう。

「結局野宿か」
「まっ、たまにはこう言うこともあるさ。ほら」

 携帯燃料で炙った干し肉を、ガウリイが差し出してくる。
 リナはそれを受け取ると、奥歯で噛み千切った。
 本当は焚火でもしたいところだが、入口が一つしかない洞窟ではさすがに危険だし、なにより、火種になりそうな枯れ木も全部濡れていて使い物にならない。

「うう、あったかいお風呂とベッドが恋しいよ」
「そう言うなって。オレだって寒いんだから」
「あんたが寒いなら、あたしはその倍以上寒いわよ」

 干し肉を噛みながら、よく分からない対抗意識を燃やすリナ。
 うーんと、ガウリイが小さく唸って考える。

「そんなに寒いなら、服脱いであっためあうか」

 スパーン!

 その瞬間、間髪入れずガウリイの脳天に、リナのスリッパがヒットした。
 小気味いい音が、洞窟の中で反響する。

「痛いなリナ」
「うっさい! セクハラよそれ!」

 真顔で頭を擦るガウリイに、リナは力一杯怒鳴った。

「まったく、前も同じこと言ったわよね、そう言えば」
「あ、それってあれだろ。ランツに会った時の」
「へえ」

 ガウリイの台詞に、リナは珍しく、感心したように目を見開く。

「ガウリイが人の名前覚えてるなんて、珍しいじゃない。どうしたのよ?」
「お前さんな」

 真面目に聞いてくるリナに、ガウリイは苦笑する。

「オレだって、なんでも忘れてる訳じゃないんだぞ」
「本当? じゃあ、あたしと会った時のこと覚えてる?」
「そりゃ、もちろん。盗賊たちに囲まれてて」
「そうそう、ガウリイが得意げに助けに来たのよね」

 その時のことを思い出して、リナはくすくすと笑った。
 ガウリイが、照れ臭そうに頬を掻く。

「だって、あの時は子供が襲われると思ったから、なあ」
「誰が子供よ!」
「いやいや、そう言う意味じゃなくて、あの時はリナが強いなんて知らなかったしな」
「まあ、そりゃそうよね。それじゃあもし知ってたら、助けずに放っておいた?」
「うーん・・・いや、多分助けに入ったと思うぞ」

 少し考え込んだ後、ガウリイはあっさりとそう答える。
 えっ、と、リナの頬がわずかに赤らんだ。

「だってそうしないと、盗賊たちが可哀想だからな」
「そう言うオチか!」

 思わず叫ぶリナ。
 そこで、ふと、二人の会話が途切れた。
 草木を叩く雨音が、静寂の時間を埋めていく。

「なあ」

 雨音に掻き消えそうな声で、ガウリイが呟いた。
 彼の方を見ると、真剣な青い瞳が、リナの姿を捉えている。

「本当に、暖め合わないか?」

 ガウリイの手が、リナの手の上に重なった。
 雨の音が、煩いくらいに耳に付く。
 握り返したガウリイの手は、ほんのりと温かかった。







「なんか、変なの」
「? なにがだ?」

 目の前で覗き込むガウリイの顔を、リナはしげしげと見詰めた。

「思ってたより、恥ずかしくないな、って」

 確かに、少し気恥ずかしさはあるけども、自分の性格なら、もっと恥ずかしくってもよさそうなのに。
 おまけに、相手がガウリイである。
 毎日顔を合わせて、何をするにも一緒で、そんなガウリイとこんなことになったら、恥ずかしすぎてもう二度と顔を見られないと思いそうなものなのだが、案外そうでもない。
 直接肌で感じるガウリイの体温は、いつも隣で感じている時よりも少しだけ温かくて、気持ちよくて。
 きっとそのせいかも知れないと思いながら、リナはガウリイの首に腕を回す。

「恥ずかしい方がいいのか?」
「ばっ、なんでそんな発想になるのよ!」
「もっと恥ずかしいことしてやろうか?」

 スパーン

 本日二度目。リナのスリッパが、見事な半円を描いてガウリイの脳天に直撃した。

「・・・なあ、このスリッパ、一体どこから出てくるんだ?」

 リナの手の中にあるスリッパを眺めながら、ガウリイがしげしげと呟く。

「乙女の秘密よ」
「ふーん」

 気のない返事を返したかと思うと、突然、ガウリイがリナの唇を奪った。
 目を丸くするリナに構わず、ガウリイの舌が彼女の中へと割り入ってくる。
 リナの舌を絡め取り、ちゅっと音を立てて、顔を離した。
 頬を上気させ、リナがガウリイを見上げる。
 二度目のキスは、リナも自分から舌を絡ませた。





 背中を撫でると、びくっとリナが体を強張らせた。
 首筋から鎖骨、胸元へと、唇を徐々に下へと落としていく。

「ちょっ、ガウリイ」
「なんだ?」

 リナの声に、ガウリイが顔を上げる。
 彼女は顔を赤くして、ちょっと拗ねた様に唇を尖らせる。

「くすぐったいってば」
「どこが?」
「その、背中とか・・・首のとことか・・・」
「ここ?」

 リナの言ったところを、ガウリイが同時に攻める。
 ひゃんっと、小さな悲鳴を上げて、リナの体が再び強張った。

「だ、から、くすぐったいの!」
「どんな風に?」
「なんか・・・ぞわぞわする・・・」
「それは、くすぐったいんじゃないんで、気持ちいいんだ」
「えええええ」

 ガウリイの台詞に、リナは大袈裟に声を上げる。

「どう違うのよ?」
「んーそうだなー」

 少し考えて、ガウリイはリナの足の間に手を差しこんだ。
 割れ目を撫でると、リナの体がびくりと震えた。

「ここ、濡れてるの、分かるか?」

 指を前後に動かすと、くちゅくちゅと雨音とは違う水音が、リナの耳に届く。
 まだ他人に触られたことのない場所に、ガウリイの指が這っている。
 そのことに、羞恥で顔を赤くしながらも、リナはぎこちなく頷いた。

「リナが気持ちいいから、濡れてるんだ」

 言いながら、ガウリイの指は割れ目を開き、奥に隠れていた小さな突起に触れた。
 その瞬間、リナの体がびくっと撥ねる。

「な、に?」
「気持ちいい?」

 彼女の中から溢れた蜜を絡み取り、もう一度突起に触れる。
 ゆるゆると指を動かすと、リナはガウリイの首にしがみ付く。

「わ、かん、ない・・・」

 首を振って、泣きそうな声で答える。
 そんなリナを宥めるように、ガウリイは空いている方の手でリナを抱き締めると、もう片方の手は彼女の突起を撫で続けた。
 初めて感じる快感に、リナはどうしたらいいか分からず息を詰める。
 時折、息をするために肺を震わせると、甘い声が微かに零れ落ちた。
 頭の中がふわふわする。
 不意にガウリイが、彼女の耳朶を甘噛みした。

「〜〜〜」

 ぎゅっと、首に回した腕に力が入る。
 ダメだよ、ガウリイ。変になっちゃう――。
 そう訴えたかったが、すでに喋れるだけの余裕なんてなかったリナは、ガウリイにしがみ付いたまま、せり上がってきた快感に、二度、三度と体を震わせた。
 はあっと、熱い吐息が口から零れる。
 それを聞き、ガウリイがようやく指を離した。

「どうだった?」

 今のが初めての絶頂だったなんて、まだ知らないリナは、ぼんやりとする頭でガウリイのことを見詰める。

「わかんない、けど・・・」

 わずかに残った理性が、少しだけ言葉を濁らせた。
 言うのは恥ずかしかった。だけど、

「けど?」

 ガウリイが先を促すから、おずおずとリナは口を開く。

「悪く、なかった・・・」

 ふっと、ガウリイが微笑んだ。
 優しい笑顔のまま、彼はリナを力一杯抱き締めた。





「多分、痛いと思うけど」

 広げたマントの上にリナを寝かし、覆い被さったガウリイが申し訳なさそうにそう告げる。
 マントはまだ濡れていて気持ち悪かったけど、地面に寝るよりはマシだからと、ガウリイが敷いたのだ。
 知識はあった。
 曰く、死ぬかと思ったとか、死んだ方がマシだったとか、死ねばいいのにと思ったとか。
 碌でもない知識の数々が、頭の中を巡る。
 リナは強張った表情のまま、それでもどうにか頷いた。
 困ったように、ガウリイが笑う。

「そんなに緊張してると、入るもんも入らんぞ」

 その台詞に、リアルに行為そのものを想像してしまい、リナの顔がカアアッと赤くなる。
 ますます、ガウリイが苦笑した。

「もう少し濡らすか」

 ぽつりとガウリイが呟くが、すでに頭の中が真っ白になっていたリナの耳に、その声は届いていなかった。
 彼女が異変に気付いたのは、開かれた足の間に、ガウリイが屈みこんだ時である。
 なにを、と問うより早く、リナの割れ目にガウリイが舌を這わせた。

「っ・・・!?」

 指とは違う柔らかな感触。
 それになりより、そんな場所をガウリイが舐めていると言う事実が、リナの神経をより鋭敏にさせた。

「ちょっ、がうり」

 闇雲に伸ばした手が、ガウリイの頭を掴む。
 引き離そうと力を込めるが、リナ程度の腕力では、ガウリイなどびくともしない。

「だめ、って、ばあ・・・」

 ダメだと言いながらも、リナは自分が気持ちよくなってきていることに気付いていた。
 引き離そうとしていた手は、いつしか縋り付くようにガウリイの髪の毛を掴む。
 開いた割れ目から舌が中へ侵入すると、甘ったるい声がリナの口を付いて出る。

「はっ、あっ・・・がう、りいぃ・・・」

 赤く腫れた肉芽に、ガウリイが音を立てて吸い付いた。

「ふあっ、あっ、」

 びくっと、リナが背筋の仰け反らせる。
 視界が白くなる。流されそうになる意識の中、ぎゅうっと両手に力を込めると、繋ぎ止めるように大きな手が重なった。
 指を絡める。離れないよう、その手を握って、リナは二度目の絶頂を迎えた。
 波が去った後、リナはぐったりとそのまま脱力した。
 もう指一本だって動かせない。
 朦朧とする意識の中、視界の端に、金色に揺れるものが映った。
 視線だけどうにあ動かすと、ガウリイが、頬に張り付いた彼女の髪を払っている。
 慈しむように、彼はリナの額に、頬にと、口付けを落とし、彼女の足の間に割り入ると、濡れそばった秘部へと、猛った自身を埋め込んでいく。

「うっ、あっ・・・」

 あまりの圧迫感に、半ば飛んでいた意識が一気に戻ってきた。
 ゆっくりとこじ開けられる感覚に、リナはたまらずガウリイの二の腕を掴む。

「大丈夫か?」

 問われても、声が出る余裕などない。

「止めるか?」

 その問いにだけは、リナは何度も頭を左右に振った。
 ガウリイは一度腰を引く。少しだけ痛みがマシになり、ほうっとリナが息を吐いた。
 その瞬間、ガウリイがまたぐいっと奥へと押し込む。

「っ・・・」

 上がりそうになった悲鳴を、リナは喉の奥で押し殺す。
 そんなことをしたら、今度こそ本当に止めてしまうのではないかと思い、必死だった。
 じわじわと、大きくなる圧迫感。
 額からはじんわりと汗が滲み、縋る手は力が入りすぎて、ガウリイの腕に赤い痕が残る。
 どれくらいそうしていただろうか。
 ふわりと、突然体が浮いた。
 ガウリイが、彼女を抱き上げたのだ。

「辛かったか?」

 繋がったまま、ガウリイはその場に座り、リナと向かい合う。
 彼女の額に浮かんだ汗を拭い、張り付いた髪を後ろへと流すガウリイに、

「入った・・・?」

 震える声で、リナが問いかけた。

「ああ、ちゃんと入ったぞ」

 それを聞いて、ようやくリナは大きく息を吐いた。
 繋がった箇所の、もっと奥からも、自分のもの以外の熱を感じる。
 なんだか不思議な感じだ。
 しばらくガウリイは、リナを労わるように髪を優しく梳いてくれた。
 それが気持ちよくて、リナもされるがままになる。
 そんな時間がしばらく続くと、

「ところでリナ」

 不意に、ガウリイの声が降ってきた。
 「ん?」と顔を上げると、ガウリイは落ち着かない表情でリナを見下ろしている。

「もう、動いてもいいか?」

 ああ、そうか。これで終わりではないのか。
 達成感で一杯で、すっかり終わったつもりになっていたリナは、唐突に我に返った。
 ソワソワとするガウリイがなんだか可愛くて、つい吹き出してしまう。

「なんだ?」
「なんかガウリイ、面白い」

 くすくすと笑うリナに、ガウリイはムッとしたように眉を顰めると、いきなり立ち上がった。

「ひゃっ、あっ」

 慌てて、リナはガウリイにしがみ付く。
 中で当たる角度が変わり、思わず声が漏れた。

「動くぞ」

 言うが早いが、ガウリイが立ったまま腰を揺らしだす。
 また痛みが襲うのではないかと、身構えたリナだったが、そんな心配は無用だった。
 奥を突かれる度に、ジンジンとした快感が背筋から駆け上がってくる。
 嬌声が零れるのを、最早止めることは出来なかった。

「あっ、あっ、」

 きゅうっと、リナの中が締まる。
 絶頂を迎え、そのまま弛緩しようとするリナの体を抱えて、ガウリイは尚も腰を動かし続けた。

「やっ、だめえ、がう、いま、うごい、ちゃ」

 息も絶え絶えに懇願するが、ガウリイは動きを止めようとはしなかった。

「はあっ、ああっ、あんっ」

 リナの嬌声が、更に艶を増す。
 ガウリイに抱えあげられている限り、リナに逃げ道などない。
 力が抜けそうになりながら、リナは必死にガウリイにしがみ付いた。
 与えられる快感が、ますます大きくなる。

「ふあっ、あっ、あっ」

 また、波がくる。今までで、一番大きな波が。
 視界だけじゃない。意識も、感覚も、全てを塗りつぶすような快感に、リナは身悶えした。

「くっ・・・」

 小さくガウリイが呻いて、彼女の中に熱いモノが放たれる。
 しかしすでにその時には、リナは意識を手放していた。







 目を覚ますと、そこは薄暗い洞窟の中だった。
 一瞬、なにがあったのか思い出せなかったリナだったが、突然昨日の記憶が一気に甦る。
 ああ、そっか。あたし、ガウリイと・・・。
 思い出したら恥ずかしくなるかと思ったが、意外とそんなこともなく。
 むしろ、これまで欠けていたパズルのピースが収まったような、そんな充実感に満たされている。
 ふと、自分の体に太い腕が巻きついていることに気付き、リナは肩越しに後ろを見た。
 そこには、まだスースーと寝息を立てているガウリイがいる。
 一応服は着せてくれたようだが、どうにもちぐはぐで、リナは小さく笑みを零した。
 雨は止んでいる。世界が輝いて見えるのは、雨上がりのせいだろうか?
 木々の間から見える空は、昨日の曇天が嘘みたいな青空で、リナは眩しそうに目を細めた。








世界はこんなに美しい







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