蜜事は秘めやかに







 夜も更けてきた頃、そろそろ寝ようかと、オレはベッドに潜り込んだ。
 安宿の薄い布団だが、それでも横になれば、睡魔だってやってくる。
 そうして、うとうとしていた、その時、オレの耳は、不穏な音を拾い上げた。
 押し殺した吐息。わずかに軋むベッド。
 よく知った音だった。だからそれだけで、オレは隣の部屋でなにが起こっているのか簡単に悟り、小さく、息を吐いた。

 リナが一人でそう言うことをしている……。
 そのことにオレが気付いたのは、わりと早い段階でだと思う。
 金の節約のためにと、今日みたいな安宿に泊まれば、どうしても壁は薄くなって隣の部屋の音も拾いやすくなる。
 それでも普通なら、多分気付かないだろう。風の音、くらいに思って。
 だけど……オレ、耳もいいんだよなあ……。
 本当に本当に小さな声で、リナが呻いたのが聞こえた。布団のシーツが、擦れる音も。
 まあ、リナも年頃だ。こう言うことだって興味があるだろうし、それをどうこう言うつもりはない。
 だけど、普段の色気より食い気なリナばかり見ていたら、彼女がこう言うことをしているのは、なんだか信じられない気持ちがあった。
 一体、どんな顔でやってるんだろう……。
 固いベッドに横たわり、自分の体をいじっているリナを想像すると、こっちまで変な気分になってくる。
 仕方なくオレは、溜まった熱を発散させるため、ベッドから起き上がった。










 その日は、古びた山小屋で野宿をすることになった。
 この辺は道も悪く、日暮れまでに村に辿り着けないだろうことは、出発する時に分かっていたことだ。
 だからだろう。その山小屋も、古くはあるが綺麗に手入れされていて、最近も誰かが使った形跡があった。
 だけど今夜は、オレとリナ以外は誰もいないらしい。
 非常用の干し肉や、近くの川で獲った魚なんかを、炙って食べる。
 簡単だが、悪くない夕食だ。
 適当に明日の予定を話し合って、オレたちは早々に眠りについた。
 毛布に潜り込み、明日こそは温かなベッドで寝ようと、固く心に誓う。
 どれくらいしただろうか。
 不意にオレは、近くで聞こえてくる妙な音に気付き、目を覚ました。
 体の回復具合から考えて、寝てからそれほど時間は経っていなさそうだ。
 一体何の音だろうかと、眠い頭で考える。

「っ、はっ……」

 微かに聞こえた、熱い吐息。それを聞いた瞬間、オレの眠気は一気に吹き飛んだ。
 それは、いつも壁越しに聞いていた声。
 まさか……。
 そっと毛布から顔を出し、オレはリナの方に視線をやった。
 彼女はオレに背を向けて、肩までしっかりと毛布を被っている。
 暗闇に沈むようなリナの背中。
 だけどそれが、微かに蠢いていることに、気が付いた。
 今までだって、何度か野宿はしている。
 だけど、こんなことは初めてだった。こんな……こんな場所で、リナがすることなんて……。
 どうしてだ? 我慢できなかったのか?
 若いんだから、そう言うこともあるだろう。そうだ、珍しいことじゃない、多分。
 だったらオレにできることは、気付かなかったフリをして、また寝ることだ。
 オレが気付いたことがリナに知れたら、明日から気まずい旅になってしまう。
 だから寝よう。早く寝よう。
 呪文のように、オレは胸の中で呟いた。
 それなのに、オレの視線はリナの上から、少しも動こうとしない。
 小さく跳ねる肩。もぞもぞと動く足。不自然なため息。
 それらが、オレの想像を煽る。
 リナがどんな顔をして、どうやって自分を慰めているのかを。

 早く目を逸らせ。見なかったことにしろ。早く、早く。

 オレはそっと体を起こした。
 リナに気付かれないよう、気配を殺し、音を殺して、身を乗り出す。
 そして、彼女の肩を静かに掴んだ。
 びくりと、小さな体が跳ねる。
 振り返ったリナの瞳は、薄闇の中で、驚いたように見開かれていた。
 そんな彼女の身体を、見下ろす。
 右手はズボンの中に潜り込み、左手は、服の裾から胸の辺りに伸びているのが分かった。
 なにやってるんだ、オレは……!
 見なかったことにしようと思ったのに、どうしてこんなことを……!?
 カアアッと、リナの顔がみるみるうちに赤くなっていく。

「すまん、声が聞こえたから、どっか痛いんじゃないかと思って……」

 自分の口から、スラスラと都合のいい嘘が出てくるのを、オレは他人事のように聞いていた。
 一方リナは、まだ固まったままで、混乱から抜け出せていないようだ。
 ワナワナと唇を震わせて、なにかを言おうとしているが、なにを言えばいいのか分かっていないように見える。
 どうしよう? どうしたらいい?
 よくあることだからと言って、慰めるか? それとも、なんでもないフリをして、さっさと寝た方がいいのか?
 頭の中を、色々な言葉がぐるぐると回る。
 今にも泣き出しそうな、リナの顔。視線をずらせば、乱れた衣装が飛び込んでくる。

「手伝ってやろうか?」

 気が付けば、オレはそんな言葉を口にしていた。
 リナが目を丸くする。オレがなにを言ったのか、信じられないと言いたげに。
 オレは、リナの足の間に手を伸ばす。

「やっ……!」

 咄嗟に反応したリナが、逃げようと体をくねらせた。
 それを押しとどめ、オレはズボン越しに、リナの足の間に指を這わせる。
 布越しでも分かるくらい、そこははっきりと湿り気を帯びていた。

「ちょっ、止めなさいよ、ガウリイ!」

 暴れるリナの体を、オレは後ろから抱きかかえたる。
 リナはどうにか抜け出そうともがいているが、力でオレに敵うはずもなく、それは意味のない抵抗となっていた。

「こんなんじゃ、眠れないだろう?」

 耳元で囁いて、オレは割れ目にそって指を動かす。
 ピクッと、リナが体を竦ませた。
 服の上からでも、彼女の乳首が立っているのは明白で、オレはそれを指で摘まむ。

「っ……!」

 リナがぎゅっと、オレの腕にしがみ付いてくる。
 それは、慣れない刺激に、体を固くしているだけなのだろうけれど、縋るようなその行為は、オレの気持ちを増長させるには、充分だった。

「気持ちいいか?」

 オレの問いに、リナは無言で首を横に振る。
 反応してるくせに、リナの態度にオレは少しムッとして、彼女のズボンの中に手を差し込むと、直接割れ目を触った。
 ぎゅっと、リナが唇を噛み締めて、顔を伏せる。

「こんなに濡れてるのに?」

 その問いにも、リナは頑なに首を横に振った。
 オレは構わず、愛液を指に絡ませ、リナのそこを弄る。
 ズボンの中と言う限られた空間は、少々窮屈で動かしにくいが、脱がす手間も惜しかった。
 緊張か、刺激が強すぎるのか、リナは声どころか息まで止めて、ジッと固まっている。
 これでは、どこが気持ちいのかも分からない。
 オレは剥き出しになったリナの耳に、舌を這わせた。

「っ……!?」

 ビクンと、リナの肩が跳ねる。
 耳元で喋ったりすると、いつも大袈裟に反応するから、耳が弱いんじゃないかと思っていたが、案の定だ。
 舌をそのまま耳の穴に差し込むと、リナが身体をくねらせた。

「ちょっ、やだあ……耳は、あっ!」

 ふうっと息を吹きかけたら、リナの口から甘い声が漏れる。
 こんな声も出せるのか。
 普段のリナからは、想像もできないような声を引き出せたことに、オレは小さな達成感を感じた。

「一人じゃこんなこと、出来ないだろ?」

 耳から顎、首筋へと、ゆっくり舌を這わせていく。
 その間にも、指は彼女の割れ目を蠢いていた。
 そこはリナの吐き出す愛液ですっかりぐしょぐしょになっていて、オレの耳にまで卑猥な水音が響いている。
 これなら入るだろうか?
 そっと、リナの中へと、オレは指を挿入しようとした。
 しかしその瞬間、リナがジタバタと暴れ出す。

「いや、いやあ……」

 快感に溺れた拒絶ではなく、明確は拒否の反応に、オレはそこから指を離した。
 あからさまにホッとして、力を抜くリナ。
 どうやら、まだ自分でも、ここには指を挿れたことはないらしい。
 処女か……。
 そうじゃないかとはなんとなく思っていたが、確信を得て、勝手に口元が緩んだ。
 中に挿れることは諦めて、再び割れ目に戻る。
 この刺激で、茂みの中からわずかに頭を出した蕾に指を置くと、

「ふあっ!」

 リナの口から嬌声が上がった。
 やっぱり、普段はこっちをいじってるんだな。じゃあ、今日はここで、気持ちよくさせてやるよ。
 ふやけた指で、円を描くように小さな突起を弄った。
 潰すように力を入れると、ぷるっと指の下からすり抜けて逃げてしまう。
 それが面白くて、何度も何度も捏ねくり回した。

「あん、いやっ、そんなっ、はっ、あっ!」

 二人だけの山小屋に、リナの喘ぎ声が木霊する。
 なんだか、夢みたいな光景だ。
 自分の吐く息に、熱が籠っているのが分かる。
 このまま押し倒して挿れたら、どんなに気持ちいいだろうか……。
 胸の内に沸いて出た欲望を、オレは唇を噛んで抑え込んだ。
 代わりに、リナを攻める指の動きを、早く、激しくする。

「ああっ、だめえ……あっ、ああああっ!」

 きゅうっと、足の指を丸め、オレの腕にしがみ付いて、リナの体が小さく震えた。
 長いようで、短い時間が経った後、詰めていた息を吐き出して、リナがドッと脱力する。
 イッたか……。
 胡乱な目で、荒く呼吸を繰り返すリナを、そっと横たわらせ、服の乱れを直してやる。
 毛布を掛けると、リナは一瞬考えるような素振りを見せた後、耐え切れなかったのか目を閉じた。
 すぐに聞こえる、微かな寝息。

「おやすみ、リナ」

 そっと髪を撫でて、すぐに離れる。
 名残惜しかったが、このまま側にいては、我慢も限界になりそうだったからだ。
 オレはリナを起こさないよう、山小屋の外に出た。
 中は薄暗くて気付かなかったが、今日は満月らしく、外は意外と明るい。
 あんな声で、あんな顔で、喘ぐんだな、リナも……。
 オレは自分の手を見下ろした。
 ふやけた右手の指に残る、先ほどの行為の残骸。
 オレはそれを、口に含んだ。
 これが、リナの味か……。
 熱がまた、ぶり返したのが分かる。
 オレは自分の昂ぶりを鎮めるために、自分のそれに手を伸ばした。



 どんなに後ろめたいことがあっても、朝はいつも通り来るわけで。
 白々と明るくなる空を、オレはぼんやりと眺めていた。
 昨日、自分で処理した後、冷静になるととんでもないことをしでかしたことに気付き、結局中に戻れなかったのだ。
 リナ、怒ってるかな……。怒ってるよな、絶対。
 一体どんな顔で、彼女と会えばいいのだろかと、オレはない頭を捻ってうんうん考える。
 と、その時。
 突然、山小屋の扉が、軋んだ音を立てて開いた。

「あっ……」

 思わず、声が上がる。
 中から出てきたリナが、チラリとオレの方を一瞥した。

「なによ、まだ準備できてないの?」
「えっと……」
「早く支度しなさいよ。置いてくわよ」

 リナに言われ、オレはバタバタと慌ただしく準備をする。
 簡単に朝食を済ませ、並んで山小屋を後にした。
 隣を歩くリナの姿。オレはこっそりと、その横顔を盗み見る。
 怒ってない、のか……?
 リナの態度はいつもと変わらず、昨日のあれはオレの妄想だったのではないかと、そんな気すらしてくす。
 オレの視線を感じたのか、リナが一瞬こちらを見た。
 目が合うと、気まずそうにふいっとそっぽを向く。
 やっぱり、夢じゃないよなあ……。
 リナの態度が理解できず、オレはただ首を捻っていた。










 翌日も、そのまた翌日も、いつもと変わらない日々が続く。
 最初はぎこちなさのあったリナの態度も、時間と共に徐々に元通りに戻っていった。
 そうなると、あの夜のことを今更蒸し返すのも、難しくなる。
 聞きたいことは色々あって、でも聞けない毎日に、オレは一人悶々としていた。

「じゃあ、また明日ね」
「おう」

 いつものように別れて、オレとリナは宿屋の自分の部屋へと戻った。
 今日は向かい合わせになるよう部屋を宛がわれ、これでは彼女の部屋の様子は、分からない。
 と言っても、あの夜以来、リナは一人ですることを止めているみたいで、隣り合わせになった時でも、彼女の部屋からはなんの物音も聞こえてこなかった。
 ちょっとだけ寂しい。
 一方的ではあったかもしれないけど、あの夜オレの手で、あれだけ乱れたくせに……。
 勘違いも甚だしい怒りを持て余し、オレは早々にベッドに潜り込んだ。
 だが、なかなか眠れない。
 ゴロゴロと、ベッドの中で、何度目かになる寝返りを打っていると、突然、扉が開いた。
 オレは上体を起こし、扉の方に視線を送る。

「リナ……?」

 パタンと、後ろ手に扉が閉められた。
 ぼんやりとした闇の中、静かに佇んでいるのは、間違いなくリナである。

「どうしたんだ、こんな時間に?」

 なにか伝え忘れてたとか?
 ベッドから起き上がろうとしたオレだったが、その途端、リナがタッと走り出した。
 扉からベッドまでの短い距離を、あっという間に詰め、、オレの肩を掴むと、そのままベッドへと押し倒す。

「???」

 意味が分からず、オレは目を丸くした。
 馬鹿みたいに呆然としているオレのことを、リナは睨み付けるようにして、見下ろしている。

「あんたのせいだからね」
「? なにがだ……?」
「あんたが、あんなことするから……満足できなくなったじゃない」

 拗ねたように口を尖らせるリナ。
 あんなこと? 満足できなくなった?
 心当たりがありすぎる単語に、しかしオレはすぐに反応できず、ただただリナを見上げることしかできない。

「責任とって、満足させなさいよ」

 薄闇の中、彼女の瞳が妖しく光った気がする。
 それを見て、オレはごくりと、生唾を飲み込んだ。



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