「ええええええええええええええええ!!!!!!」

 アメリアの絶叫が、裏庭に響き渡る。
 その声に、リナは飲んでいたリンゴジュースを危うく噴き出しかけた。
 寸でのところでそれは回避したものの、逆流したジュースがおかしなところに入ったせいで、しばらくリナは咳き込む。

「なに、大声、上げてんの、よ、あんた、は!!!」

 咽ながら諌めるリナに、しかしアメリアは「だって!」と、更に声を張り上げる

「リナとガウリイさんが付き合ってないって、どう言うことよ!!!」







ジギタリスの花言葉









「どうって、だってあたしとガウリイ、そう言う仲じゃないもん」

 飲み終わったリンゴジュースのパックをゴミ箱に捨てたリナは、困ったように振り返った。
 視線の先では、目を丸くしたアメリアがこちらを見ている。

「だって、いつも一緒に帰ってじゃない!」
「いつもじゃないわよ。部活あるんだし。まっ、家の方向が一緒だから、同じになることは多いけど」
「よく二人で出掛けるし」
「ゲーセンに行ったりとか、後食べ歩きとかよ。なによアメリア、あんた付き合ってくれるの?」
「いい、遠慮しておこくわ・・・」

 ぶんぶんと、アメリアは勢いよく首を横に振った。
 リナとガウリイの食べる量と言ったら、尋常ではない。
 その二人の食べ歩きに付き合わされるなんて、それは拷問以外の何物でもないだろう。

「じゃあ本当に、ガウリイさんとはただの友達ってこと?」
「そうよ」

 さらりと頷くリナの様子から、とても嘘をついているようには見えない。
 どころか、本当の本気で、ガウリイのことをただの友達だと思っているようだ。
「ほら、変なこと言ってないで、とっとと行くわよ、アメリア。次の時間、移動教室なんだから」
 そう言って、リナは歩き出す。
 その背中に、

「ガウリイさん、可哀想・・・」

 ぽつりとアメリアは呟くが、その声はリナに届くことはなかった。





 ガウリイの漕ぐ自転車の後ろに、リナは立ち乗りする。
 顔に受ける風が気持ちよくて、彼女は大きく深呼吸をした。
 今はテスト週間だ。
 当然部活もその間は休みで、リナとガウリイはこうして一緒に帰ることが多かった。

「あっ、ガウリイ。アイス食べない?」
「おお、いいぞ」

 リナの視線の先には、年季の入った駄菓子屋がある。
 結構年の入ったお婆さんがやっている駄菓子屋で、遠足の前日になれば、近所の子供たちで賑わっていた。
 今日は珍しく、子供たちは誰もいない。
 店の前に適当に自転車を止めると、リナとガウリイはアイスボックスを覗き込んだ。
 お目当てはもちろん、ホームランバーだ。

「おばちゃん、お金ここ置いとくね」

 店の中の商品の上に二人分のお金を置くと、二人は店の前のベンチに腰掛ける。
 夏が近づくにつれ、日も随分長くなった。
 部活もなにもない日は、時間が有り余っているように感じて仕様がない。

「あんた、今回のテストはどうなの?」

 アイスを銜えると、冷たさに頭の奥がツンと痛んだ。
 ガウリイは、すでに半分近く食べており、リナの台詞にあっはっはと朗らかに笑った。

「バカだな、リナ。オレがテストでまともに点数取れたことないだろ」
「自信持って言うな!!!」

 リナがガウリイの頭を叩くが、彼はさして気にした様子も見せず、残りのアイスにかぶりつく。
 まだ一年生で、クラスも同じだった頃は、よくリナがガウリイに勉強を教えたものだ。
 それも、二年生になり、リナが進学クラスへ進んだことで、まったくなくなってしまった。
 ちょっと残念だな、とリナは思う。
 勉強を教える見返りに、ガウリイに色々奢ってもらったから、その機会が減ってしまったことがだ。
 アメリアは何やら色々と、勝手な妄想をしていたようだが・・・。

「そう言えば」

 ふと、昼間のやり取りを思い出し、リナは喋り出した。

「アメリアがさ、あたしとガウリイが付き合ってると思ってたみたいなのよ。バカよね、そんなことある訳ないのに」

 ケタケタとリナが笑うと、ガウリイは何故か落ち着きなく目を瞬かせている。

「えっ、そうなのか?」
「そうよー。だって、あたしとガウリイがなんて、考えられないわ」

 でしょ?とリナは問い返すが、ガウリイはYESともNOとも言えない、曖昧な態度で頷くだけだ。
 ガウリイの様子に、若干違和感を感じながらも、リナは続ける。

「だいたい、あたしは金持ち以外興味ないし。狙うなら玉の輿よね、やっぱり」

 ぐっと、握り拳を作るリナに、ソワソワしながらガウリイが口を開く。

「えっと・・・本当にリナは、全然オレのことを異性として見てない、ってことか?」
「さっきからどうしたのよ、ガウリイ」

 ガウリイの態度に、いよいよリナも怪訝そうに眉を顰める。

「だって、あたしとガウリイよ。ただの友達。そんなことある訳ないじゃない。ガウリイだってそう思って・・・」

 言いながら、台詞の最後の方は自然と掻き消えていった。
 ガウリイが、嘗てないほど真剣な眼差しで、リナのことを見ているからだ。

「お前さんは、本当にオレがなにも思ってないとか思ってるのか?」
「ガウリイ・・・??」
「オレは、お前さんのこと・・・」

 そこまで言って、ガウリイはなにやら逡巡するように動きを止めると、

「帰る!」

 そう言い捨てて、走ってその場を後にした。
 すぐに見えなくなるガウリイの背中。
 それを見ながら、自転車置いてってるわよ、とか、アイス溶けちゃったじゃない、とか、最初はどうでもいいことばかり思い浮かんでだが、不意に先程のガウリイの顔を思い出すと、途端にカァァッと顔が赤くなる。

(なによなによ、今のは!)

 色恋沙汰に疎いと言われるリナだって、そこまで鈍い訳じゃない。
 あそこまで露骨な態度を取られたら、さすがに気付きもする。
 だけど、本当に?ガウリイが?嘘でしょ?

(だって、あたしとガウリイは友達で、今までだって一緒の遊んだりしてたけど、そんなそぶり全然見せなかったし、って言うかさっきのはなによ!!!あんな中途半端なことしておいてほったらかしって、そんなの、そんなの・・・)

「一体この後どうしたらいいのよ!!!」

 リナの絶叫は、閑静な住宅街に響いて、そして消えていった。



140330