宿を出た途端、身を切るような冷たい風が吹いて、リナは思わず身を縮める。

「さむっ」

 太陽はまだ昇り始めたばかりで、その恩恵には期待できない。
 リナはマントの前をぴっちりと閉じた。
 だからと言って、たいして寒さが和らいだわけではないが。
 冬は始まったばかりだと思っていたのに、すでにこんなに寒い事実に、リナは辟易する。
 これで本格的な冬になったら、どうなってしまうのだろう?
 世界中が凍りついてしまうではないか。

「もっと南に行こうかな・・・」

 狭い結界内で南に移動したところで、劇的に暖かくなる訳ではないが、それでもここよりはマシだ。多分。きっと。
 暖かな陽射しに、リナが思いを馳せていると、

「なになに? 次は南に行くの?」

 遅れてやって来たガウリイが、楽しそうにそう聞いてきた。
 リナは肩越しに彼女の方を見て、そのまま、眉間の皺を深くする。

「ガウリイさ、その恰好どうにかならねえの?」
「ん?」

 なんのことを言われたのか分からず、ガウリイが首を傾げた。

「だから、その恰好。寒くねえの?」

 上は辛うじて、長袖の貫頭衣に代わっているが、下なんか短パンのままである。
 素肌が剥き出しになった状態は、見ているだけでも寒々しい。
 んーっと、ガウリイは考え込む。

「まあちょっと寒いけど、動いたらあったかくなるよ?」

 ガウリイの回答に、リナは信じられないものを見るような目で、彼女のことを凝視する。
 確かに、これから次の街まで行くのだから、多少は暖かくなるだろう。
 ガウリイは剣士だし、厚着して動きにくくなるを厭うのは理解できる。
 だがそれでも、もう少しどうにかなるだろうと、リナは思う訳で。

「オレには絶対真似できないな」

 思ったことを、口にした。
 するとガウリイは、そうねーと頷き、まじまじとリナを見る。

「リナって体薄いし、なんか寒そう」

 その台詞に。リナは分かりやすく不機嫌になると、ガウリイのことを睨み付けた。
 同じ世代の男たちに比べたら、リナは小さいし、筋力も乏しい。それは事実だ。
 だが、それをわざわざ言われるのは、やっぱり腹が立つ。

「わたしよりちっちゃいもんね」

 わざわざ目が合うように身を屈められ、リナの顔にカッと血が上る。

「いいんだよ! これから大きくなるんだから!」

 それは、ただの負け惜しみで、言った後で無性に空しくなったが、それでも言わずにはいられなかった。
 男のプライドと言う奴だ。
 ガウリイはそんなことに気付いているのかいないのか、ただ穏やかに笑っている。

「あっ、ねえリナ」

 その時、不意に彼女が、いいことを思いついたと言いたげに弾んだ声を上げた。
 なんだと、リナは視線で問い掛ける。
 ガウリイは手を伸ばすと、無造作にリナの手を握った。

「!?」
「ね、こうした方があったかいでしょ」

 突然のことに、目を白黒させるリナと対照的に、ガウリイは無邪気に笑って見せる。
 と、その顔が、突然真顔に変わった。

「あれ、リナ・・・」
「なっ、なんだよ!」

 咄嗟に手を振り解くことも思いつかず、しどろもどろになりながら、リナは声を上げる。
 ガウリイはじっとリナの手を見詰めて、

「なんか、手大きくなった?」

 そんなことを聞いてきた。

「ほら、見て」

 リナの掌と、ガウリイの掌が合わさる。
 剣を握ってきたせいで、ガウリイの手は、お世辞にも綺麗とは言えない。
 剣だこも出来ているし、掌の皮だって分厚いし。
 それでもこの手は、数々の窮地を切り開いてきた戦士の証で、こんな場面だと言うのに、思わずガウリイは見惚れた。

「前までわたしの方が大きかったのに、今はほとんど変わらないよー」

 手首から指先を、ぴったりと併せる。
 本当だ。ガウリイの言うとおり、二つの掌に大きな違いは見られない。

「やっぱり男の子だね。そのうち、なにもかも追い抜かれちゃうのかな」

 にこりと、合わせた掌の向こう側で、ガウリイが微笑んだ。
 意識せず、リナの顔が赤くなる。
 その表情を見られるのが照れくさくて、ふいっと、リナはぶっきら棒に視線を逸らした。

「ほら行こう、リナ! 早くしないと、次の街に間に合わないよ!」

 リナの手を引き、ガウリイが歩き出す。
 バランスを崩しながら、リナはガウリイの後に続いた。
 繋いだ手が、妙にくすぐったかった。







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15.12.21