「うーん・・・」

 呻くリナの手が、半分くらい減ったワインの瓶に伸びる。
 掴もうと指が動くが、それより早く、横から伸びた手がワインをひょいっと持ち上げた。

「あにすんのよ!!!」

 呂律の回らない口調で、リナが叫ぶ。
 それを見て、彼――ガウリイは、困った様に苦笑した。

「飲み過ぎだぞ、お前さん」
「がうりいには関係ないれしょ」

 分かりやすく、リナが口を尖らせる。

「いいから、よこしなさいよー!!!」
「バカ、危ないって!」

 身を乗り出して、リナはガウリイの手の中にあるワインを取り返そうとする。
 だがしかし、酒に酔って満足に動かせない体は、突然の動きについていけず、リナはバランスを崩すとガウリイの胸に枝垂れかかった。

「おっと、大丈夫か?」

 リナを抱きとめるガウリイ。
 その顔を、据わった眼で見つめたリナは、唐突に口を開いた。

「今、ラッキーって思ったでしょ」
「・・・・・・はっ?」

 突然のリナの台詞についていけず、ガウリイは間の抜けた声を出した。

「あたしに凭れかかられて、あたしを抱きとめて、ラッキーって思ったでしょ」
「そんなこと・・・」
「とぼけるんじゃないわよ!!!」

 リナがガウリイの胸倉を掴み上げる。

「あんたがあたしを好きってこと、ちゃんと知ってるんだからね!!!」

 ひっく、と、しゃくり上げるリナを、ガウリイは呆然と見つめていた。

「あによその顔、気付かれてないと思ってたの? あんな優しい目で人のこと見てくるくせに? 名前呼ぶ声がたまにすごく甘ったるかったり、依頼人が男だと、警戒心丸出しにしてあたしとの間に入ってくるし」
「ちょっ、待て、リナ・・・」
「この間だって、人が昼寝してるからって、髪にキスしてきたでしょ!!! ちゃんと起きてたんだからね!!!」
「そ・・・えっ、起きてた・・・のか・・・?」
「まだまだあるのよ!!! それなのに、あんたはいつまでも保護者ヅラしてなんにも言ってこないし、それとも、全部あたしの勘違いだって言うの!? どうなのよ!!!」

 リナに詰め寄られ、どうしようもないくらい顔を真っ赤に染め上げたガウリイは、挙動不審に辺りを見渡したり、なにか言いかけて口を噤んだり、しばらくは傍目に見ていても可哀想なくらい動揺していたが、やがて観念したのか小声で呟いた。

「・・・・・・ちがわないです」

 ガウリイの返答を聞くと、リナはにこっと、満足そうに微笑む。

「ほらやっぱり! 回りくどいことしてないで、ちゃんと言いなさいよね。でないとあたしだって、どうしたらいいか分かんないでしょ」
「・・・・・・はい」
「それでは、正直者にはご褒美をあげましょう」

 リナの腕が、ガウリイの首に巻きついた。
 まだ立ち直れていないガウリイを引き寄せると、その頬に、軽く唇を押し当てる。
 呆気に取られるガウリイの顔を見て、

「へへ〜」

 リナは満足そうに笑うと、そのままズルズルと意識を手放していった。





 突然糸が切れたように寝始めるリナを前にして、ガウリイはしばらく途方に暮れていた。
 ふと、我に返って辺りを見渡してみれば、一部始終を見ていた酒場のマスターからの面白そうな視線に気付き、急に気恥ずかしくなる。
 適当に会計を済ませ、リナを抱き上げると逃げるように店を後にした。
 外はすっかりと冷え切っている。あまり飲んではいなかったが、酔いなんてとっくに冷め切っていた。

「・・・ばれてたのか・・・・・・」

 思い出して、また恥ずかしくなったガウリイは、1人赤くなる。
 自分では、今までと変わらない態度で接してきたつもりなだけに、そこまで露骨なことをしていたことに驚きだ。
 昼寝の件は、寝ていると思ってついつい魔が差してしまったのだか・・・。
 恥ずかしかったが、だか、気付かれていたのだと知って、妙に気持ちが軽くなる。
 ばれているのなら、もう我慢をしなくてもいいと言うことだ。

「そう言えば、リナの気持ち、聞いてなかったな」

 人のデリケートな部分を、酔いに任せて無遠慮に暴いたくせに、結局こちらがなにか聞く前に酔い潰れてしまうとは、なんともひどい話だ。

「まっ、いいか。明日聞けば」

 リナはあんなことを言っていたが、ガウリイだって言ってやりたい。
 自分に笑いかけるリナの顔が、すごく柔らかくなってることとか、女の人に声をかけられると、あからさまに機嫌が悪くなることとか。

「オレだって、知ってるんだからな」

 眠るリナに語りかける、ガウリイの声は、暗がりに優しく溶けていった。








知らないなんて、言わせない。





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