「長いな」

 唐突なその台詞が、自分に向けられたものだと気付くのに、ガウリイはしばらくかかった。
 そう言えば、今は自分とこの男の二人しかいないのだと言うことに思い至り、

「ん?」

 首を傾げてゼルガディスを見れば、彼は小さく苦笑している。
 テンポの遅さが自分らしいとでも、思われたのだろう。

「いや、髪がな、やけに長いなと思ってな」

 ゼルガディスが補足され、ガウリイは自分の髪を見下ろした。
 言われてみれば、確かに。
 元々髪が長かったので、多少伸びたところであまり気にはならなかったが、ガウリイの髪はすでに太腿近くにまで到達していた。

「本当だ、気付かなかったな」

 男の長髪は、別に珍しくない。
 と言うか、マメに短くしている方が珍しい。
 だがそれでも、ガウリイくらい長い人は、女でも珍しいのではないだろうか。

「邪魔だろ。切らないのか?」
「そうだなぁ・・・」

 ガウリイは自分の髪を一房掴んだ。
 別に理由があって伸ばしている訳ではないし、ここで短くしても一向に構わないのだが、

「まっ、そのうちな」

 そう言って、ガウリイはのほほんと笑う。
 ゼルガディスも別にそれ以上ツッコむこともなく、そうかと呟くと、それ以降髪のことについては触れてこなかった。





 その日泊まった宿屋で、ガウリイが剣の手入れをしていると、

「ガウリイ、いる?」

 リズミカルなノックに続き、聞きなれた声が彼の名前を呼んだ。

「おー、いるぞー」

 呑気に答えると、鍵をかけていなかったドアが、ガチャっと外から開けられる。
 顔を覗かせたのは、案の定リナだった。
 ガウリイの姿を認めると、リナは上機嫌に傍まで来る。

「ゼルはもう戻ったのか?」
「うん。軽く明日の打ち合わせをしただけだし」

 言いながら、リナはガウリイのベッドに登ると、彼の背後に陣取った。

「またするのか?」
「当然!」

 ガウリイの問いかけに、リナは力強く即答する。
 くいっと、軽く髪が後ろに引かれた。そして、シュッ、シュッと、ガウリイの髪に櫛が入る。
 ここのところの、リナの日課が、ガウリイの髪を弄ることだった。
 興に乗れば、やれ三つ編みだ、ポニーテールだと、散々いじられることになる。
 ちなみに、断るなどと言う選択肢は、ガウリイにはなかった。

(まっ、そのうち飽きるだろうしな)

 剣を手入れする手は休めず、ガウリイはリナにされるがままになる。

「あんたの髪ってさ、ホント、ズルいわよね」
「? なにがだ?」

 軽く頭を巡らせると、真剣な表情でガウリイの髪を凝視しているリナの姿が目に入った。

「なんにもしてないのに、サラサラだし、艶々してるし」
「そうか?」
「そうよ! 本当はあたしに隠れて、陰でなにかしてるんじゃないでしょうね?」

 疑いの眼差しを向けるリナに、ガウリイは「してないしてない」と苦笑する。
 それに、リナの髪だって綺麗だとガウリイは思うのだ。
 ふわふわしてて、柔らかくて、風に揺れるとまるで、踊っているように見えて。
 と言うことを、以前リナに言ったら、こう言う癖っ毛の髪の手入れがいかに大変かを熱弁されたのも、いい思い出だ。

「さてと、今日はどうしようかな」

 鼻歌交じりに、リナはガウリイの髪を一房手に取った。
 細いリナの指が、スルリと彼の髪の間を滑る。

(気持ちいいな・・・)

 声には出さず、ガウリイは胸中で呟く。
 あまり他人に髪を弄られた経験はないが、これがなかなか気持ちいい。
 疲れている時なんか、つい眠くなることもあるくらいだ。
 もしガウリイが髪を短くしたら、もうリナがこうして部屋を訪れることも、髪を弄ることもなくなるのだろうと思ったら、それも少し躊躇われる。

(まっ、いいか。別に急いで切らなくても)

 穏やかに流れる時間に身を任せて、ガウリイはそっと目を閉じた。








撫でられるのが好きだから、


髪の毛を切れないでいる








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