図書館とは静寂であるべきだ。  それは、リナだけでなく、そこを利用する者なら誰もがそう思っているだろう。
 古びた紙の匂い、ひんやりとした空気。
 そのどれもが、彼女の思考をクリアにする。
 もう何度も捲られ続け、ボロボロになった本のページを、リナは破らないように慎重に捲った。

「なあ、リナ」

 その時、不意に声がかけられる。
 退屈に耐え切れなくなった子供のようなその声を、しかしリナは無視をした。

「なあ、リナ」

 しかし、声の主は懲りずにもう一度繰り返す。
 活字の世界に入り込んでいた意識が、少しだけ現実に戻ってきた。
 ばれないように、リナは本越しにチラリと前を見る。
 椅子に座り、テーブルに上体を預けて、上目遣いにこちらを見る男と、一瞬目が合いそうになり、リナは慌てて視線を本に戻した。

「りーなー」

 ええい、もう、鬱陶しい!!!
 顔には出さないように、リナは胸中で叫ぶ。
 今日は図書館に行くと告げた時、一緒に行くと言ったのはあの男の方だ。
 もちろん、リナは断った。
 それでもしつこく一緒に行くと言うものだから、絶対に騒ぐなと、邪魔をするなと念を押したのだが、たかだか五時間本を読んでいたくらいで音を上げるとは、男の風上にも置けない奴だ。

「腹減ってないのか、お前さん?」

 人を食欲魔人のように言うのは、止めて頂きたい。
 確かに食べることは好きだし、もうお昼時も過ぎた頃だけど、それよりもこっちの方が大切なのだ。
 何せこの本、古すぎて貸し出しは一切禁止されている代物である。
 何ヶ月も前から予約をして、指定された一日だけ自由に読ましてもらえるのだ。
 ご飯を食べている暇などない。

「リナー。おーい」

 こうなったら、徹底的に無視をすることに、彼女は決めた。
 退屈になったら勝手に出て行けとも言ってある。この男が覚えていない可能性も高いが。
 だいたい子供じゃないんだから、そのくらい自分で考えてもらいたいものだ。
 ガウリイの声に反応をせず、清々と本を読むリナを見て、彼は面白くなさそうに唇を尖らせた。
 ガタンと、彼が椅子から立ち上がる。
 静かな図書館に、その音は少しだけ大きく響いた。
 どうやら出て行く気になったらしい。
 こっそりと、リナはため息を付いた。
 これで集中して本を読める、そう思った矢先、

「リナ」

 低く抑えた声と、そっと吐き出された吐息が、彼女の耳を擽った。
 驚いて、思わず後ろを振り返る。
 熱を感じそうなほど近い距離から、拗ねた様な青い瞳が彼女のことを覗き込んでいる。

「少しはこっち見ろよ」

 むすっとした彼の声。
 拗ねているのではない。これは、嫉妬だ。
 そう気づいた瞬間、リナの顔はカァァッと音がしそうなほど真っ赤に染まった。








こっち見てよ







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