ちょっとトイレで席を外した、その隙だった。
 用を足して、ふと自分たちのいたカウンターの方を見ると、男が数人群がっている。
 ムッとする気持ちと一緒に、またかと、そんな台詞も浮かんできた。
 男たちは、なにやら熱心に喋っているが、なにを言っているのかまでは、店の喧騒が邪魔をして、オレの所まで届かない。
 そんな男たちの中心に据えられたリナは、まったく素知らぬ顔で、黙々と食事を食べていた。
 無駄なのに、と思いながら、オレは人を避けながら歩き出した。
 その辺のナンパ野郎が声をかけて、どうこうできるほどの女ではない。
 案の定、なにを言っても相手にしないリナに焦れて、男の一人が彼女の肩を乱暴に掴んだ。
 リナの眉間に皺が寄る。
 呪文を唱えようか、このまま殴り飛ばそうか、悩んでいるのが分かった。
 その逡巡の間が、オレにとっては幸いした。
 男たちを押しのけ、リナに手を伸ばすと、彼女の体をオレの方へと傾ける。
 小さな体躯が、すっぽいと腕の中に収まったのを見て、オレは男たちににっこりと笑いかけた。

「悪いな、先約がいるんだ。どうしてもって言うなら、オレが相手になるけど?」



 オレの登場に、男たちは舌打ちをしながら離れていく。
 剣を携えた人間を相手に、事を起こすほどの度胸はないらしい。

「ちょっと」

 その時、不意に腕の中から声がかかり、オレは見下ろした。
 不服そうに唇を尖らせるリナが、オレのことを睨み付けている。

「いつまで触ってるのよ」
「あっ、すまん」

 反射的に謝って、オレはリナから手を放した。
 リナは椅子に座り直すと、ブツブツ言いながらチキンの照り焼きをフォークで突き刺す。

「今のはやりすぎじゃない?」
「そうか?」

 きょとんと首を傾げると、リナはオレの方をちらりと見て顔を赤らめる。
 照れているのか、だったら嬉しいんだけど。

「だいたい、ガウリイに助けて貰わなくっても、自分でどうにか出来るわよ」
「まあ、そうだろうけど」

 言いながら、オレは苦笑する。
 リナが強いのはよく分かってる。一人でどうにか出来ることも。
 だけど、だからってああ言うのを放っておくなんて、とてもじゃないが出来る訳ない。
 ふと、リナがオレの顔を覗き込んできた。
 思わぬ至近距離に、今度はオレの動悸が激しくなる。

「ガウリイってさ、なんであたしのこと助けるの?」
「へっ・・・?」

 リナの質問の意図が読めず、オレは変な声を上げてしまった。

「戦いの時は別よ。そうじゃなくて、ああ言う場面で。あんな男たちに、どうこうされる女だと思ってる? そんなにあたしって頼りない?」

 思わず、オレは言葉に詰まった。
 頼りないとか、そんなんじゃなくて・・・一瞬、本当のことを言おうかと、そんな思いが頭を擡げる。
 だけど、すぐにその考えを振り払った。
 伝えたら、もし知られたら、もうリナとこんな関係でいられないかも知れないから。
 それだけは、どうしても避けたかった。

「オレは、お前さんの保護者だからな」

 口から出たのは、そんないつもの決まり文句で。
 胸の高さにある頭を優しく叩けば、リナが不満げにこちらを睨む。

「子供扱いしないでよ!」

 子供扱いさせてくれよ。
 そんな言葉は飲み込んで、オレはただアホみたいに笑った。







君が好きで、嘘をついた。







150906
title by 桐@お題bot