「えっ?」
「おっ?」
「あっ!」
「ん?」

 なんてことはない、ちょっと寂れた田舎町。
 その道端で、偶然出会った四人は、予期せぬ再会に思わず立ち尽くした。

「リナ! 久し振りじゃない!」

 真っ先に動いたのは、アメリアだった。
 歓声の声を上げ、目の前の少女に抱き着く。

「ちょっ、止めなさいよ、アメリア! 公衆の面前で!」

 慌てふためくリナに、しかしアメリアは、腕の力を緩めようとせず、楽しそうに笑っていた。

「久し振りだな、ゼル」

 目の前の男が、ニコニコと笑いながら声をかける。
 名前を忘れていなかったかと、そんなことを考えながら、珍しくゼルガディスも、フードで隠した口元を笑みの形に刻んだ。

「本当に、久し振りだな」







 かつて、共に旅をしたものたちがいた。
 一人は、世間的にも有名な女魔道士で、実力は折り紙つきだが、性格の悪さにも定評がある。
 そしてもう一人は、そんな彼女の保護者を自称して、一緒に旅をする剣士の男だ。
 高位魔族すら絡んできたとある事件で、男は自分の愛用の武器を無くしてしまった。
 その代わりとなる魔力剣を探すのだと、二人と別れたのが数年前。
 旅をしていれば、偶然出喰わすこともあるだろうが、その数年の間、まったく音沙汰もなかったので、正直驚いた。
 しかも、なにかの事件に巻き込まれてではなく、たまたま立ち寄った田舎町でばったり、なのだから、世間は自分で思っているよりも、狭いのかもしれない。

「しっかし、驚いたなー」

 隣に立つガウリイの台詞に、ゼルガディスは彼の方に視線を向けた。

「ゼルが、アメリアと一緒に旅をしているなんて」
「別に、ただの交換条件だ」

 素っ気なく、ゼルガディスが答える。
 元の体に戻る、その方法をアメリアも探す代わりに、たまのお忍びの旅行に、ゼルガディスも同行する。
 それが、二人の交わした約束だった。
 セイルーンの情報網が使えると言うのは、ゼルガディスにとってかなり僥倖な話だったが、わりと頻繁に城を抜け出すアメリアに、あちこち連れ回され、この取引は果たして公平だったのだろうかと、最近では考えずにいられない。
 ぷっと、ガウリイが小さく吹き出した。

「なんて言うか、変わんないな、ゼルは。そう言う律儀なところ」

 くつくつと、肩を震わせて笑うガウリイに、ゼルガディスはいささかムッとする。

「そう言うあんたこそ、変わらんな。未だに、リナと一緒に旅をしているんだろう」

 口調がぶっきら棒になってしまうのは、照れた時のゼルガディスの癖だ。
 彼はちらりと、ガウリイの腰の剣に視線を送る。

「目当てのものは・・・見つかったのか?」
「ああ・・・一応、な」

 ゼルガディスの視線を受け、ガウリイは腰に差した剣を、スッと一撫でした。
 この男が以前持っていた剣を思えば、代わりになる魔力剣など、そうそう見つかる訳がないように思えるが、本人がそう言うのなら、それなりのものは手に入ったのだろう。
 自分のことを、過大評価はしない男だ。

「そうか。よかったな」

 おめでとう、とでも言えればいいのかも知れないが、いかんせそんなキャラではない。
 だが、ガウリイも、それは分かっているのか、嬉しそうに微笑んだ。

「ああ、ありがとう」



 彼らの前では、リナとアメリアが、さっきからずっと騒いでいる。

「って言うかアメリア、髪伸ばしてるの?」
「そうよー。元々は長かったんだけど、英雄伝に憧れてばっさり切ってたのよね」
「あー・・・あんたらしいわ・・・」
「身長もほら、前より伸びたのよ」
「うわ、生意気・・・」
「リナは・・・あんまり変わんないわね」
「どう言う意味よ! あたしだってね、ちょっとくらい背も伸びたわよ!」
「んー・・・確かに背は伸びてるみたいだけど、胸が・・・」
「な・ぐ・ら・れ・た・い・の、かしら? アメリアは?」

 ギリギリと、アメリアの頬を抓るリナと、それを振り払おうとするアメリアを見て、ゼルガディスはやれやれと言いたげにため息をついた。
 あそこも、本当に変わらない。
 数年の隔たりなど、なかったことのようだ。
 懐かしい光景に、ゼルガディスは郷愁の念を感じて目を細めた。

「なあ、ゼル・・・」

 その時、となりで同じように二人のやり取りを見ていたガウリイが、ぽつりと呟く。

「リナは・・・いつも通りに見えるか・・・?」

 質問の意図が分からず、ゼルガディスは訝しむ。
 しかし、珍しく真面目な表情で、リナを見詰めるガウリイを見て、悟るものがあった。

「なにか・・・あったのか・・・?」
「・・・・・・」

 ゼルガディスの問いに、ガウリイは少し困った顔で頬を掻く。

「まあ、ちょっとな・・・オレじゃあ、上手く説明できんのだが・・・」

 そう言うガウリイの横顔も、どこか悄然とした様子があり、ゼルガディスはただ黙って次の言葉を待つ。

「オレでも、結構堪えることではあったんだが、リナは、多分それ以上に、傷ついたり、自分を責めたりしてる・・・。顔には出さない奴だけどな」

 ぽつぽつと、ガウリイは語る。
 普段あまり饒舌でない男が、考えながら口にする言葉は、人々の喧噪の中へと雪のように解けて消えていった。

「リナは強いから、いつかは乗り越えられると思う。だけど、今はやっぱり、まだしんどいんじゃないかって、思ってな。だから、今日お前さんたちに会えて、よかったよ」

 こちらを向き、笑うガウリイは、昔と同じように見えて、だけど少し、違うようにも見えて。
 ふっと、ゼルガディスは笑いを零す。

「? どうしたんだ?」
「いや、あんたら二人の関係は、変わってないと思っていたんが、案外、ちゃんと変わるもんだな」

 ゼルガディスの言わんとすることが分からず、ガウリイは不思議そうに首を傾げる。
 それを見て、ゼルガディスはますます笑みを深くした。








変わりゆくもの







160906