おはようとおやすみをくりかえして

サンプル3

 そこまで読んで、リナは本から顔を上げる。
 それなりにページ数はあったが、子供向けの童話だけあって、読むのにさほど時間はかからなかった。
 光の剣の勇者の伝説。有名な物語だ。
 本以外にも、吟遊詩人の語る歌や、演劇団の舞台などで目にする機会も多いから、それこそ老若男女、誰でも知っている。
 仲間がいたり、ザナッファーを倒した後の冒険談があったりと、多少内容が変わることもあるが、勇者が伝説の光の剣で魔獣ザナッファーを倒す、それだけは変わらない。
 その【光の剣】の持ち主が、ガウリイだった。
 彼の、何代前になるか分からないご先祖様が、物語に出てくる『勇者様』なのである。
 もっとも光の剣も、今はもう失われてしまったのだが。
 元々は、別の世界の魔王の武器だったらしいそれは、リナの目の前で、フィブリゾが元の世界へと返してしまった。
 だからガウリイの手元に、もうあの剣はない。

「……」

 ガウリイはそのことを、どう思っているのだろう。
 なくなったと告げた時、彼は別になにも言わなかった。
 ただ一言、そうかと言って、遠い目をしただけだ。
 あの時ガウリイは、一体何を思ったのだろう?
 剣士にとって、剣はただの道具ではない。ましてや、光の剣だ。代わりになる剣を探してあげる、などと言ったが、そんなものが本当に見つかる保証もない。
 あの剣がなければ、切り抜けられなかった死地も、一つや二つではないのだ。
 ガウリイが、どれだけ光の剣を大切にしていたか、それは容易に想像ができる。
 それを失くしてしまった。リナと、関わったことで。
 もしもリナと出会わなかったら、光の剣は今もまだ、ガウリイの所有物であったはずだ。

「……」

 きっとガウリイは、そんなことは言わない。
 彼の性格を思えば、そんなこと、思いつきもしないかも知れない。
 しかし、リナは気付いてしまった。
 そしてそのことが、彼女の胸に、わずかな影を落とす。

(恨まれていたら、どうしよう……)

 漠然とした不安が、不意に頭をもたげた。

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