おはようとおやすみをくりかえして

サンプル1

「はい、じゃあこれ、部屋の鍵ね。食堂が開いてる時間は、ここに書いてある通り。お弁当もあるけど、欲しい時は前日には言っといておくれよ」
「分かったわ。ありがとう、おばちゃん」

 渡された鍵を受け取り、リナはフロント前にある、階段へと足を向けた。
 随分と年季の入った宿屋らしく、階段の手摺は、多くの人が触れてきたのだろう、艶やかな光沢を放っている。
 手を乗せると、吸い付くような感触が、薄い皮膚を通して伝わってきた。
 毎日磨かなければ、これだけ見事な艶は出ない。
 愛されているのだなと、その事実に、少しだけ微笑ましさを感じる。

「そう言えば、ガウリイ。本当にいいの?」

 階段を上りながら、リナは肩越しに振り返った。
 ちょうど二段後ろを付いて来ていたガウリイは、リナと目が合うと、足を止めて小さく首を傾げる。

「なにがだ?」
「だから、ここに一週間も滞在して。新しい剣、早く見つけたいんじゃない?」
「あー……」

 リナの指摘に、思い出したと言わんばかりに、ガウリイが声を上げた。
 ポリポリと、困ったように頬を掻く。

「そうは言っても、魔力剣なんて、どこにあるかも分からんしなー……」

 ガウリイの言う通りだ。
 しかも、リナたちが探すのは【ただの剣】ではないのだから、余計である。

「まっ、いいんじゃないのか? 急ぐこともないし。それに、あんなこともあったんだから、ちょっとくらいゆっくりしても、いいと思うぞ」

 言って、にっこりと笑いかける、その顔に、思わず見惚れかけたリナは、慌てて前に向き直った。
 不意を突かれて、驚いた心臓が、煩いくらいに脈打っている。
 なにせ、こうしてガウリイと二人になるのも、随分と久し振りなのだ。

(気付かれてないよね……?)

 チラリと、目線だけで見たガウリイの表情は、普段となにも変わらなくって、その心情を推し計るのは難しい。
 騒ぐ胸中を落ち着けようと、無駄な足掻きをするべく、リナは大きく息を吐いた。

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